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独占禁止法の歴史をわかりやすく解説 日本と各国の特徴と最新の動き

2022.5.2 更新

「(Googleは)競争を制限するような契約を結ぶことで、ネット広告分野での支配的な地位を固めてきた[1]

これは、EU委員会競争政策担当であるマルグレーテ・べステアー氏が、2019年に記者会見で述べたことです。米国アルファベット傘下のGoogle[2]が、日本の独占禁止法に相当するEU競争法に違反していると断じた際の発言でした。

このとき、EU委員会は、Googleがサードパーティ[3]のウェブサイト運営者との契約に制限条項を設け、競合企業がウェブサイトに検索広告を掲載するのを制限したとして、EU競争法の違反により14億9000万ユーロ(約1900億円)の制裁金を科しました。

Googleは上記の事例の以前にも、2回に渡りEU委員会に制裁金を科されています。

2017年には、「検索エンジンの優位性を悪用して自社が提供する商品のショッピングサイト広告にユーザーを誘導した」として、24億2000万ユーロ(約3000億円)の制裁金の支払いを命じられました。Googleは反論し裁判で争いましたが、EU司法裁判所はGoogleの主張を退け、制裁金が確定しています。

また、2018年には「Googleは基本ソフト(OS)の「Android」が同業者を排除し、利用者に悪影響を与えている」として、43億4000万ユーロ(約5700億円)の制裁金を支払うように命じられました。これは、違反行為を止めないと、1日当たりの売上高の最大5%の罰金を毎日科すという厳しいものでした。この金額は、EU競争法の違反を巡る単独企業の制裁金では、過去最高額です。

この事例は、のちにGoogle側とEU委員会側の論争へと発展しました[4]。措置に対しGoogleは異議を申し立て、「Androidは市場競争を機能させる上で大いに役立ってきた。この措置は市場規模全体の縮小につながる」と反論しました。さらに、「EU委員会は、競合であるアップルの競争力を過小評価しており、競争状態にあることを見ていない」と述べ、EU委員会の判断は間違いだと主張しました。

これに対し、EU委員会は、「アップルの市場シェアは小さいので、Googleが支配的地位にある事は変わらない」と反論しています。

EU競争法に違反するかどうかは、Googleの経営やビジネスモデル、市場獲得に大きく影響するものです。だからこそ、措置に対する論争も白熱したと言えるでしょう。

Googleほどの巨額の制裁金を科されるケースは多くはありませんが、独占禁止法はときに企業の経営に大きな影響を与える法律です。独占禁止法とは、どのような法律なのでしょうか。

今回は、独占禁止法の歴史について、コンプライアンスのプロがその誕生から最新のトレンドまで、歴史を変えたエピソードを交えてご紹介します。

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[1] 「グーグルに1900億円制裁金、欧州委「独禁法違反」」,『日本経済新聞』, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42730200Q9A320C1EA1000/(閲覧日:2022年3月4日)
[2] 「Google LLC」。本稿ではGoogleと表記。
[3] 「第三者」という意味の英語。パソコンや周辺装置、ソフトウェアなどを対象として、それに対応する製品やソフトウェアなどを販売・提供するメーカーのこと。
[4] 「アンドロイドのEU競争法違反問題、グーグルの異議申し立て審理始まる」,『REUTERS』,https://jp.reuters.com/article/eu-alphabet-antitrust-idJPKBN2GO00L (閲覧日:2022年3月28日)

1. 独占禁止法の歴史 始まりと各国での広がり

冒頭で紹介した欧州のEU競争法など、世界各国には日本の独占禁止法のように公正で自由な競争の実現をめざす法律が存在します。法律にはさまざまな名前がついていますが、本稿ではそれらを独占禁止法と呼びます。

世界初の独占禁止法は、19世紀の米国で制定され、その後各国で整備されるようになりました。ここでは独占禁止法の歴史と、米国、日本、欧州、中国を中心とした世界の独占禁止法について見ていきます。

1-1. 米国の独占禁止法

まずは、世界初の独占禁止法が制定された米国の歴史的な背景を確認しましょう。

19世紀後半、米国では巨大資本がライバル会社を買収して独占化することにより、市場での自由な競争が制限される状態でした。代表的な事例として、石油精製事業に関するスタンダード・オイル・トラストがあります。

米国ロックフェラー家の創始者ジョン・ロックフェラーは、1870年、スタンダード・オイル社を起業し、競争相手を次々と買収して独占化しました。そして、1879年にはスタンダード・オイル・トラストを形成するようになりました。このトラストにより、ロックフェラーは、米国の石油精製能力の約90%を占めるようになり、石油王と呼ばれました。

一方、スタンダード・オイル・トラストが行った価格協定などは、消費者に不利益を与えるとの非難が起こり、連邦議会は1890年反トラスト法として、シャーマン法を制定しました。これが世界初の独占禁止法です。

1907年、セオドア・ルーズベルト大統領は、連邦議会の要請を受けて、スタンダード・オイル・トラストをシャーマン法違反で告発しました。4年の裁判を経てスタンダード・オイル・トラストは有罪となり、34社に分割されました。他にも、タバコの独占企業であったアメリカン・タバコ社も、シャーマン法の違反により4社に分割されています。

現在、米国の独占禁止法は、単一の法律ではなく、すべての州に適用される3つの連邦法から構成されています。1890年制定のシャーマン法、1914年制定のクレイトン法、1914年制定の連邦取引委員会法です。

シャーマン法は、反トラスト法とも呼ばれており、カルテルなどの取引制限を禁止する法律です。

クレイトン法は、シャーマン法の予防的な規制を目的とした法律です。競争を阻害する価格差別の禁止不当な排他的条件付取引などを禁止しています。

連邦取引委員会法は、不公正な取引方法などを禁止するとともに、執行機関である連邦取引委員会の権限や手続きを規定しています。他にも、ほとんどの州には、独自の反トラスト州法があります。

独占禁止法の執行機関は、法律により異なります。連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)は、大統領が任命する5人の委員から構成され、クレイトン法と連邦取引委員会法を担当しています。

司法省反トラスト局(反トラスト局:Antitrust Division, Department of Justice)は、司法省の機関であり、シャーマン法とクレイトン法を担当しています。

さらに、各州の州司法長官は、それぞれの州が制定する反トラスト法を担当しています。

1982年、外国取引反トラスト改善法により、米国の域外の行為に対するシャーマン法の域外適用が規定されました。この法律により、日本企業であっても、米国のシャーマン法に違反した場合、厳しい制裁が科されることになりました。

日本企業がシャーマン法の域外適用を受けたケースとして、2012年の矢崎総業デンソーの事例があります。これは、米国向けの自動車部品の取引において、10年にわたり価格カルテルを続けていたとして、5億4800万ドル(約419億円)の罰金を科されたものです。両社は司法取引に応じ、関与した矢崎総業の日本人幹部4人は、1年3カ月から2年の禁錮刑を受けました。

このように、独占禁止法は米国の反トラスト法が制定されたのが始まりでした。世界各国でも、市場経済化やグローバル化の流れを受けて独占禁止法の整備が進んでいます。次節からは、日本や、その他の代表的な地域や国の独占禁止法を見ていきましょう。

1-2. 日本の独占禁止法

次に、日本の独占禁止法について見ていきましょう。

日本の独占禁止法は、第二次世界大戦後間もない1947年に制定されました。米国、カナダに続き、世界で3番目の制定です。

当時日本は、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の占領下にあり、米国のシャーマン法を手本として制定されました。私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法3本柱から構成されており、M&Aに関連する企業結合規制も規定されています。

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独占禁止法の執行は、公正取引委員会により行われます。公正取引委員会は、内閣府の外局に設置された国の行政機関であり、委員長と4人の委員から構成されています。独占禁止法の執行については、他から指揮監督を受けることはく、独立して職務に当たります。そのため、市場の番人と呼ばれています。

日本の独占禁止法の特徴と制度、事例については第二章でも詳しく解説します。

1-3. 欧州のEU競争法

次に、欧州の独占禁止法にあたる、EU競争法について説明します。

1957年、西ドイツ、フランス、ベルギー、イタリア、ルクセンブルグ、オランダにより調印された欧州経済共同体設立条約(ローマ条約)には、競争法規定85条と86条が定められていました。これらの規定には、競争法の骨格となるカルテル禁止独占寡占による優越的地位の濫用禁止などが定められていました。

これらに基づき、1962年、理事会規則第17条により、誰がどのような手続きでEU競争法を執行するかという具体的な基準が制定されました。

その後、複数の改訂を経て、2009年からEU競争法欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of European Union)により規定されています。この条約には、競争制限的協定等(101条)、市場支配的地位の濫用規制(102条)、企業結合規制(理事会規則2004年第139号)などが定められており、EU競争法の具体的な規制基準になっています。

EU競争法の執行機関は、EU委員会です。EU委員会には実務担当部門として、競争総局が設置されています。EU委員会は加盟国の政府間の合意に基づき任命された委員で構成されており、競争政策には、競争担当委員が設置されています。

EU競争法には、厳しい制裁措置が規定されています。例えば、制裁金については、違反企業の直近の事業年度総売上高の10%(欧州域内に限らず、グローバル販売が対象)を上限に科すことができます。前述のGoogleが欧州委員会から高額の制裁金を科されたのは、この規定に基づくものです。

また、米国と同様に域外適用が定められています。欧州委員会は、2012年、東芝、パナソニックを含むトムソン、サムスン、フィリップスなど7つの国際企業グループに対して、ブラウン管に関する価格カルテルを行ったとして、制裁金14億7051万5000ユーロ(約186億円)を科しています。

冒頭のGoogleの事例のように、EU競争法の特徴は厳しい制裁措置にあります。制裁金巨額になる傾向にあるので、EU域内に進出する企業は違反にあたる行為がないか十分に注意することが必要です。

1-4. 中国の独占禁止法

次に、中国の独占禁止法について紹介します。

中華人民共和国独占禁止法は、2008年に施行されました。同法では、独占的協定、市場支配的地位の濫用、行政権力の濫用、企業結合などに関する規制が規定されています。独占禁止法の執行は、国務院が設置する独占禁止委員会が行います。

独占禁止委員会は、2021年、電子商取引大手のアリババ集団に対して、自社通販サイトの出店社が他のプラットフォームに出店することを禁止する慣行が独占禁止法違反に当たるとして、罰金182億2800万元(約3000億円)を科しました。この罰金額は、2019年のアリババグループの中国国内の売上高の4%が対象であり、過去最高額でした。

同年、トヨタと中国配車サービス大手の滴滴出行が、合弁会社設立を事前の届出を行っていなかったとして独占禁止法違反に問われ、それぞれ50万元(約840万円)の罰金が科されました。

このように中国では近年、デジタルプラットフォーマーと呼ばれるIT企業への規制を強化しています。2021年には独占禁止法適用のガイドラインを公布[5]し、企業が処罰を受ける事例も相次いでいます。

ここまで、世界初の独占禁止法である米国の反トラスト法をはじめ、日本、欧州、中国の独占禁止法を見てきました。この他にも独占禁止法の制定国は130を超えており、アジアでは、インドネシア(2000年施行)、ベトナム(2005年施行)、シンガポール(2005年施行)、マレーシア(2012年施行)等が独占禁止法を導入しています。

[5] 「プラットフォーム企業のアリババに約182億元の罰金、独禁法違反」,『JETRO』, https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/04/3f70efa089a02a4a.html (閲覧日:2022年3月10日)

2. 日本の独占禁止法の特徴と事例

前章で日本の独占禁止法の概要を解説しました。本章では、その特徴、課徴金の減免制度、事例について紹介します。

2-1. 日本の独占禁止法の特徴

日本の特徴として挙げられるのは、公正取引委員会が独占禁止法を執行するだけでなく、違反を予防するための活動を行っていることです。それは、違法性の判断が難しいためです。

企業は、市場競争で優位に立つために、いろいろな新しいビジネスを生み出します。その中には、独占禁止法に違反するか否か判断に迷うビジネスもあります。この場合、公正取引委員会の事前相談制度を利用することができます。

この制度は、企業がこれから行おうとするビジネスが対象です。書面での申請、直接訪問して面談による相談や電話相談も可能です。

事前相談を受けた事例は、公正取引委員会の回答とともに、ホームページで公開されます。また公正取引委員会は、法律を分かりやすく解説するパンフレットやeラーニング資料をホームページで掲載しています。

市場は刻々と変化し、新しいビジネスが生まれます。それらが新たな市場を生み出すビジネスであれば良いのですが、市場の公正で自由な競争を制限する場合は独占禁止法の問題になります。

独占禁止法の違法性の判断には微妙なケースも多く、日本の公正取引員会は、独占禁止法の執行に加えて、事前相談や法律の啓発による予防法務の活動も積極的に行っています。

2-2. 課徴金減免制度(リニエンシー)とは

2006年、カルテルや談合に参加した企業であっても、公正取引委員会に自主申告することにより課徴金が減免される制度として、課徴金減免制度(リニエンシー)が導入されました。

制度スタート時は、26社でしたので自主申告する企業がどの程度あるのかが危惧されていましたが、その後増加し、2016年までの12年間に、合計1062件(年平均88件)が申請されています。

参考)
「課徴金減免制度導入後の運用状況」,『公正取引委員会』,https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170607_1_files/betten1.pdf(閲覧日:2022年4月6日)

2-3. 日本の独占禁止法の歴史的エピソード

2018年、リ二エンシー制度を巡り市場を驚かす事件が発生しました。JR東海のリニア中央新幹線工事を巡る大手ゼネコン4社による談合事件です。

公正取引委員会は独占禁止法違反と認定し、4社に対する排除命令と、受注した2社(大林組と清水建設)に合計43億2170万円の課徴金納付を命じました。4社のうち2社(大林組と清水建設)は、談合を認めリ二エンシー制度を用いて自主申告しましたが、2社(大成建設と鹿島)は、談合を認めず、裁判で争うことになりました。

2021年、東京地方裁判所は、大成建設と鹿島の独占禁止法違反について、有罪と判断しました。そして、法人としての両社はそれぞれ2億5000万円の罰金が科されました。さらに、両社の元幹部3名には懲役1年6ヶ月、執行猶予3年が言い渡されました。両社は、判決を不服として上告し、今後、東京高裁で争われます。

この事件は各種メディアにより報じられたため、リニエンシー制度が一般的にも広く知られるようになりました。また、談合を行ったとされる企業の中で、談合を認めてリ二エンシー制度を利用した企業と、談合を認めず裁判で争う企業に分かれた事例は初めてであり、今後の東京高裁の判断が注目されています。

戦後間も無く制定された日本の独占禁止法は、米国、カナダに次いで世界で3番目に長い歴史を持ちます。一方、企業のグローバル化やデジタル化が進む現代では、こうした新たな潮流にも対応していかなくてはなりません。次章では、現代の日本における独占禁止法が直面する課題とその対応を見ていきます。

3. 最新トレンド デジタルプラットフォーマーへの対応

ここからは、独占禁止法やそれに関連する新たなトレンドについてご紹介します。

GoogleやApple[6]、Amazon[7]など、デジタルプラットフォームを提供する事業者は「デジタルプラットフォーマー」と呼ばれています。昨今、デジタルプラットフォームは巨大IT企業によって寡占化が進んでおり、公正な取引のための法整備が課題となっています。ここでは具体的な事例とともに、デジタルプラットフォーマーへの対応を見ていきます。

3-1. 独占禁止法によるデジタルプラットフォーム規制

公正取引委員会は、デジタルプラットフォーマーに対して、公正な競争のための社会的な責任や、利用者への公平性の確保を目指した積極的な取り組みを行っています。これは、新たなプラットフォーム型ビジネスが創出される環境を作ることを目的としています。

独占禁止法を根拠に、デジタルプラットフォーマーへの規制を行なった事例を3つ紹介します。

一つ目は、Appleへの規制の事例です。2018年、公正取引委員会はAppleに対して、携帯電話事業者との契約における制限について、独占禁止法違反の疑いがあるとして、審査を行ないました。Appleから契約の一部を改定するとの申し出があり、疑いが解消されたとして、審査を終了しました[8]

二つ目は、Amazonの事例です。2019年、公正取引委員会はAmazonに対して、ポイントサービスの利用規約の変更内容が独占禁止法違反の疑いがあるとして、審査を行いました。Amazonから規約の変更を修正するとの申し出があり、疑いが解消されたとして、審査を終了しました[9]

三つ目は、楽天グループの事例です。楽天市場の送料無料化を巡り、公正取引委員会が東京地裁に緊急停止の申し立てを行う事件に発展しました。

本件は、2019年、楽天グループが注文金額税込み3980円以上の場合、送料を無料にすると全出店者に通達したことが発端でした。楽天グループとしては、新規顧客の獲得や売上の増加が期待できますが、出店者は送料分を自己負担する必要があり、負担が大きいとの不満がありました。

公正取引委員会は、楽天グループの方針が優越的地位の濫用に当たる疑いがあるとして楽天本社を立入調査しました。これを受けて、楽天グループの三木谷社長は、送料無料を「送料込み」に改める対応を行いました。「送料込み」であれば、出店者が送料分を加味して価格を決められるため、優越的地位の濫用には当たらないという見解で、予定通りの運用開始を公表したのです。

これに対して、公正取引委員会は、公正な競争を妨げる恐れがあるとして、独占禁止法に基づく緊急停止命令を東京地裁に申し立てました。最終的に、楽天グループが改善措置を申し出たため、公正取引委員会は措置の履行を確認したうえで、2021年末に調査を終了しました[10]

このように、公正取引委員会は、デジタルプラットフォーマーに対して、独占禁止法違反がないかを積極的に見張っています。しかし、独占禁止法の性質上、違反が起きてから事後的に規制をすることしかできません。そこで次章で紹介する新たな法律が制定されました。

3-2. 市場の独占を事前に防ぐデジタルプラットフォーマー規制法

2021年、独占禁止法とは異なる観点から、新たなデジタルプラットフォーマーを規制する法律として、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーマー規制法)が制定されました。この法律は、デジタルプラットフォーマーが独占状態になることを事前に規制する法律です。

独占禁止法は市場の独占や寡占に問題が発生した後に、事後的な規制をする法律です。現在のようにEC(電子商取引)が発展するまでは、事後的な規制法でも効果がありました。しかし、ECが主流となった現在では、事後的な規制では不十分であることから、市場の独占や寡占の問題が発生する前に、事前に規制する法律が制定されました。

デジタルプラットフォーマー規制法と独占禁止法との関係を整理すると以下のような関係になります。

図)デジタルプラットフォーマー規制法と独占禁止法との関係

引用元)経済産業省「特定デジタルプラットフォームの透明化及び公正性の向上に関する法律の施行に向けた論点」,『首相官邸』,2020年8月,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/kyosokaigi_wg/dai14/siryou1.pdf(2022年3月3日)

規制対象となる事業者の基準2つあります。

一つ目は、物販総合オンラインモールで国内売上高が3000億円以上である事業者です。2021年現在、アマゾンジャパン合同会社、楽天グループ株式会社、ヤフー株式会社が対象になります。

二つ目は、アプリストアで国内売上高が2000億円以上である事業者です。2021年現在、AppleGoogleが対象になります。

これらの事業者は、取引条件等の情報の開示と自主的な手続き・体制の整備を行い、運営状況の報告書経済産業大臣に提出します。経済産業省は報告書を受けて、学識者と一緒に運営状況について、取引先事業者や消費者等を含めてレビューし、結果を公表します。そして、独占禁止法違反の恐れがある行為があった場合、経済産業大臣が公正取引委員会に対して、独占禁止法に基づく対処を行うように要請します。

デジタルプラットフォーマー規制法により、利用する事業者は過度な負担を受けることなく、安心して取引できることが期待できます。また、利用する消費者は、個人情報や利用データがどのように使用されているかを知ることができるようになります。

一方、マイナス面の指摘もあります。慶應義塾大学の岩本隆特任教授は、規制強化による懸念点として、地方企業への悪影響を指摘しています。

デジタル広告は、TVや新聞、雑誌などの媒体とは異なり、少ない予算でも広告出稿することができます。これにより商権を広げ、売上を獲得している地方企業も少なくありません。しかし、デジタルプラットフォーマーへの規制強化による対応コストの上昇が、広告出稿に転嫁された場合、地方企業の売上(デジタル広告経由)が最大で5年間に6.47兆円毀損される可能性を指摘しています[11]

また、デジタルプラットフォーマーが保有するビッグデータの利活用が制限されるという指摘もあります。AI技術の進化が進む中で、この法律により、デジタルプラットフォーマー取引の透明性や公正性が実現するとともに、過度の規制によるリスクが軽減されるような、バランスの取れた法律の運用が期待されています。

海外のトレンド:EU議会がデジタル市場法(Digital Markets Act: DMA)案に合意

EU議会は、2022年3月24日、巨大なデジタルプラットフォーマーに対して包括規制を行うデジタル市場法(Digital Markets Act: DMA)案に合意したことを発表しました。同法は、2023年から施行される見通しです。

対象は時価総額が750億ユーロ(約10兆円)以上か、EU域内の年間売上高が75億円ユーロ以上、月間4500万ユーザーを持つなどの条件を満たす巨大IT企業です。Google、Apple、Meta(旧Facebook)、Amazon、アリババなどが対象になると見られています。

自社のサービスを競合サービスより優遇するなどの禁止事項に違反した場合、世界売上高の最大10%の罰金、繰り返し行われた場合は、最大20%の罰金が科される可能性がある厳しい法律です。

GoogleはEU委員会に協力する意向を表明していますが、Apple技術革新へのインセンティブが損なわれることへの懸念を示しています。今後、各国デジタルプラットフォーマー規制法の動向に注目する必要があります。

[6] 「Apple Inc.」。本稿ではAppleと表記。
[7] 「Amazon.com, Inc.」。本稿ではAmazonと表記。
[8] 公正取引委員会「(平成30年7月11日)携帯電話事業者との契約に係るアップル・インクに対する 独占禁止法違反被疑事件の処理について」,『公正取引委員会』, https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/jul/180711_01.html (閲覧日:2022年3月3日)
[9] 公正取引委員会「(平成31年4月11日)アマゾンジャパン合同会社によるポイントサービス利用規約の変更への対応について」,『公正取引委員会』, https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/apr/190411.html(閲覧日:2022年3月3日)
[10] 公正取引委員会「(令和3年12月6日)楽天グループ株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について」,『公正取引委員会』, https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2021/dec/211206.html(閲覧日:2022年3月3日)
[11] 慶應義塾大学大学院経営管理研究科岩本研究室「レポート『対デジタルプラットフォーマー規制強化に伴う地方企業への悪影響』を発表」,『PRTIMES』,2020年11月12日, https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000069672.html(閲覧日:2022年3月3日)

4. まとめ

世界初の独占禁止法は、米国で1890年に制定されたシャーマン法でした。米国の独占禁止法は、シャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法の3つの連邦法から構成されています。また、各州には独自の反トラスト法が制定されています。

1982年に制定された外国取引反トラスト改善法により、米国の域外の行為に対するシャーマン法の適用が規定され、日本企業が制裁を受けた事例があります。独占禁止法の執行は、法律により、連邦取引委員会、司法省反トラスト局、各州の司法長官が担当しています。

欧州の独占禁止法に相当するEU競争法は、1957年の欧州経済共同体設立条約(ローマ条約)の競争規定に基づきます。複数の改訂を経て、現在のEU競争法は、2009年に具体的な競争規定が決まっています。EU競争法は、制裁金がグローバル販売を対象としており、巨額になる傾向があります。また、米国と同様に、域外適用があり、日本企業が制裁を受けた事例があります。EU競争法の執行は、EU委員会が担当しています。

中国の独占禁止法は、2008年に施行されました。独占禁止法の執行は、独占禁止委員会が担当しています。他にも、アジアではインドネシア、ベトナムなども独占禁止法を制定しており、制定国は130を超えます。

日本の独占禁止法は、第二次大戦後、GHQ(連合国最高司令官総司令部)の占領下で、米国のシャーマン法を手本に制定されました。独占禁止法の執行は、公正取引委員会が行っています。2006年、カルテルや談合に参加した企業が公正取引委員会に自主申告することにより、課徴金が減免される課徴金減免制度(リニエンシー)が導入され、年平均88件が申告されています。

また、公正取引委員会は、積極的にデジタルプラットフォーマーに対する規制を行っています。そして、2021年には、一定規模のデジタルプラットフォーマーに対する規制を強化する「特定デジタルプラットフォームの透明化及び公正性の向上に関する法律」(デジタルプラットフォーマー規制法)が制定されました。

独占禁止法が、事後的な規制を目的としているのに対し、この法律は事前に規制する法律です。この法律により、利用する事業者や消費者が安心して取引できるという指摘があります。一方、地方企業のデジタル広告にマイナス面があるとの指摘もあります。過度の規制によるリスクが軽減されるような、バランスの取れた法律の運用が期待されています。

今回ご紹介した独占禁止法の歴史と歴史を変えたエピソードから、独占禁止法を遵守する意義をご理解の上、自社の最適なコンプライアンスの実現に取り組んでください。

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある。

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