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公益通報者保護法改正2020 改正ポイントと企業がすべき対策2つ

2022.1.5 更新

「公益通報者保護法改正があったようだが、うちの対策は大丈夫だろうか?」

公益通報者保護法は、企業のコンプライアンス上の自浄作用を促すため、2006年に施行された法律です。その主たる目的は自社の不正を通報した従業員を保護することです。

しかし実際には、一部の通報者が通報後に不利益な扱いを受けることがありました。また、たとえ内部通報制度があっても、うまく機能していない企業があるなどの問題が発生していました。

そのため、2020年6月に罰則の強化や通報者の保護条件などについて、法改正が行われました。

「内部通報は一定数あるほうが健全」と言われていますし、CSR(企業の社会的責任)の観点からも、内部通報窓口を設けている企業は増えています。

しかし、内部通報制度の社員への浸透や通報者の保護などの点で課題が残っています。

法改正は2年以内に施行されます。そのため、企業は内部通報制度と通報者の保護の充実など、法改正に対応したコンプライアンスの取り組みを行う必要があります。

今回は、公益通報者保護法の法改正のポイントと、法改正に合わせたコンプライアンスの強化策についてご紹介します。

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1. 公益通報者保護法と改正の背景

1-1. 公益通報者保護法とは

公益通報者保護法とは、次のような趣旨で制定された法律です。

「公益通報者保護法」は、労働者が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取り扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるかという制度的なルールを明確にするものです。

消費者庁「公益通報ハンドブック」,p1-1,https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/pdf/overview_190628_0001.pdf (閲覧日:2020年11月27日)

従業員が勤務先の会社の不正を発見し、会社の相談窓口に通報した場合、会社は調査と是正等を行う必要があります。

一方で、会社側は通報者に対して、通報したことを理由とした解雇、降格、減給などの不利益な取り扱いをすることが禁止されています。

1-2. 改正の背景

しかし一部の企業では、内部通報制度が十分に機能せず、通報者が不利益な扱いを受ける事例がありました。

法律についても、適用範囲が狭く保護される通報者の要件が厳しすぎることや、違反しても企業に罰則がないことなどから、実効性に問題があるという指摘がありました。

これらの背景から、2006年の法律施行後も社会問題化するような企業の不祥事が後を絶たず、問題を解決するために、公益通報者保護法の一部が改正されました。

参考)
のぞみ総合法律事務所「公益通報者保護法の改正」,2020年7月1日,https://www.nozomisogo.gr.jp/newsletter/6677(閲覧日:2020年11月27日)

2. 法改正のポイント

今回の法改正のポイントは、以下の3つです。

(1) 体制整備義務と罰則の強化
法改正により、内部通報に適切に対応するための体制(窓口設定、調査、是正措置等)の整備が義務付けられました。
ただし、中小事業者(従業員300名以下)は、努力義務です。

また、企業の違反に対する行政措置(助言・指導、勧告、勧告に従わない場合の公表)が導入されました。

さらに、内部通報に基づき内部調査等を行う者には、通報者を特定させる情報の守秘義務が追加され、これに違反した場合の刑事罰が導入されました。

(2) 行政機関等への通報条件の改訂
行政機関については、必要な体制の整備が義務付けられるとともに、通報者が行政機関に通報する条件が緩和されました。また、報道機関等への通報条件も緩和されています。

(3) 通報者の保護義務の強化
通報者の保護対象に、退職者(退職後1年以内)と役員が追加されました。

また、保護される通報については、刑事罰の対象のみから行政罰の対象に拡大され、通報に伴う通報者の損害賠償責任が免除されました。

これらの法改正はいずれも、通報者を保護するとともに、内部通報の実効性を強化することがねらいです。

参考)
消費者庁「公益通報者保護法改正」,https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/assets/overview_200615_0001.pdf(閲覧日:2020年11月27日)

3.法改正に対応するコンプライアンス強化策

法改正に対応するコンプライアンス強化策の事例をご紹介します。

3-1. 内部通報制度の充実

「内部通報は、一定数あるほうが健全」という考え方が主流になっています。一部報道機関では、内部通報の数字を定期的に調査して、CSRに貢献する通用しやすい環境を整備した企業として評価し、ランキングを公表しています。

法改正に対応するためには、内部通報制度の充実が重要です。内部通報制度には、抑止(発見)、免責、相談などの目的があります。これらの目的に合わせて、相談窓口を設置し、通報を受けた時の対応ルールを明確にして、社員にわかりやすく説明するのが基本です。

参考)
「第2回 内部通報制度設置の目的と機能」,『Deloitte Japan』,https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/risk-management/2020/wcms-roles.html(閲覧日:2020年11月27日)

内部通報制度とは コンプライアンス経営実現のための体制の作り方

3-2. パワハラ対策7つのメニューの活用

公益通報者保護法の改正と同じ2020年6月から、パワハラ防止対策が義務付けられる関連法規の改正が行われています。

この法改正に対応するために、厚生労働省がパワハラ対策7つのメニューを提示しています。

これらの取り組みは、公益通報者保護法の改正への取り組みとしても有効です。

なぜなら、パワハラ問題は職場の上司などに相談するのが難しく、公益通報者保護法に基づき設置された内部通報窓口で相談を受けることが多いコンプライアンス問題の一つだからです。

また、今回の法改正に合わせて、具体的な方針や取り組みを明確化する必要性など、コンプライアンスの取り組みを強化すべき共通のテーマでもあります。

具体的には、次のような内容です。

(1) トップのメッセージ
すべてのコンプライアンスへの取り組みに共通しますが、経営トップがコンプライアンスに対する取り組み姿勢を明確なメッセージとして発信することはコンプライアンスの基本です。

そして、トップのメッセージは、定期的で継続的な発信であることが重要です。

特に、トップ自ら社員に対して内部通報制度の認知度を上げるとともに、通報者が保護されることを伝えるメッセージを発するのが効果的です。

(2) ルールを決める
通報者への対応ルールは、具体的な事例に対して、どのような判断をすべきかを明示する必要があります。

対応ルールを明確にすることは、通報者の保護に加えて、社内相談窓口で通報に対応する担当者にとっても重要です。

通報後、どのような手順で調査が行われ、是正に至るかを明確にしたルールを作り、社員にわかりやすく伝えることが重要です。

(3) 社内アンケートなどで実態を把握する
アンケートは、実態を把握できるだけでなく、アンケートの質問文を工夫すれば、啓発の効果も期待できます。そのため、定期的にアンケートを実施し、結果の数値を分析し、傾向を把握することが重要です。

内部通報制度や通報者の保護について、具体的な内容をアンケートに盛り込むことにより、社内の啓発効果とともに、現場の課題を把握することが可能です。

(4) 教育をする
(5) 社内での周知・啓蒙

社員教育は、法改正時が絶好のタイミングです。コンプライアンス教育には、事例から学ぶ学習が有効です。

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具体的な事例から、何が課題であったか、どうすれば良かったか、といったことを論点にして議論します。

単純な正解がない分野ですが、具体的な事例をケーススタディーとして議論することにより、内部通報制度の理解や通報者を保護する意義を学ぶことができます。

なお、公開されている事例に加え、自社の事例も活用できますが、自社の事例を使う場合には過去の情報から通報者が特定できないように配慮する必要があります。

(6) 相談や解決の場を提供する
基本的なことですが、内部通報窓口を設置し、相談や解決につなげることが大切です。

設置する窓口には、社内の窓口と社外の窓口の2種類があります。

内部通報窓口を社内のみに置くか、社外のみに置くか、それとも両方に置くかについては、それぞれの特徴を考えて検討する必要があります。

通報者の保護を明確にしたとしても、社員が同じ会社の社員に通報することはハードルが高いと思われます。

そのため一部の会社では、内部通報窓口を社外に置くことにより、社員が通報し易い環境を作ろうとしています。

社外に内部通報窓口を置く場合は、専門機関や法律事務所に初期対応を依頼することになります。

(7) 再発防止のための取り組み
ご紹介したトップの発信、アンケートの実施、教育、周知・啓蒙は、いずれも、再発防止に効果的な方法です。これらの取り組みは、体系的に企画し、社員に示すとともに、定期的に実施することが重要です。

パワハラ防止策に対する具体的なコンプライアンス強化策は、以下の記事を参照してください。

全企業に必要なコンプライアンス パワハラ防止法の概要と7つの対策

4. まとめ

2006年に施行された公益通報者保護法の一部が、2020年6月に改正され、企業への罰則や通報者の保護条件が強化されました。改正の3つのポイントは、以下の通りです。

(1) 体制整備義務と罰則の強化
(2) 行政機関等への通報条件の改訂
(3) 通報者の保護義務の強化

これに伴い、企業は内部通報制度と通報者の保護を充実させるなど、コンプライアンスの強化策を取る必要があります。

同じ2020年6月から施行されている、パワハラ防止対策が強化される関連法規の改正において、厚生労働省が次の7つのメニューを明示しました。これらは、公益通報者保護法のコンプライアンスの強化策としても有効です。

(1) トップのメッセージ
(2) ルールを決める
(3) 社内アンケートなどで実態を把握する
(4) 教育をする
(5) 社内での周知・啓蒙
(6) 相談や解決の場を提供する
(7) 再発防止のための取り組み

今回は、公益通報者保護法の改正とコンプライアンス強化の対策案を取り上げました。

これらの事例を参考に、自社の適切なコンプライアンスの実現に取り組んでください。

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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