コンプライアンスを 教える

海外出張やクラウド利用も注意! 外為法違反を防ぐコンプライアンス教育

2022.1.5 更新

「安全保障貿易コンプライアンス」と聞いてピンとくるものはありますか?
実は、意外と身近な行為が外為法違反につながる可能性があるのをご存知でしょうか。

たとえば、日常業務で使用しているクラウドサービスも、サーバーの場所や条件により、「外国為替および外国貿易法(外為法)」による輸出管理規制の対象になる場合があります。

外為法に違反せずに技術のやり取りをする方法 事例学習の方法も紹介

安全保障貿易コンプライアンスは、輸出業務を対象とする部門のみが教育対象と考える傾向があります。しかし、国内の事業部門でも、サーバーの利用に加え、海外出張した際に持ち出すサンプルや書類が輸出規制の対象になることもあります。

もう一つ事例を紹介しましょう。日本航空電子工業株式会社は1996年、空対空ミサイルの部品をイランへ不正輸出したことによって、関税法・外為法違反に対する取締役の経営責任(善管注意義務・忠実義務違反)を問われ、当時の取締役3名(元社長、専務、営業本部長)が、株主代表訴訟を受け、約12億円の支払い命令を受けました。経営に大きなダメージがあるだけでなく、取締役が株主に対して、経営責任を問われることもあるのです。

参考)
平成4(ワ)17649号、日本航空電子工業株主代表訴訟判決、東京地裁、平成8年6月20日

したがって、安全保障貿易コンプライアンスの教育は、経営幹部から、輸出や海外事業を担当する部門に加えて、海外出張やクラウドサーバーの管理などを行う国内の事業部門を含め、幅広く行う必要があります。

今回は、下記の記事でご紹介した「法令遵守+CSR・リスクマネジメント」を踏まえて、安全保障輸出管理の教育を企画する際に、押さえておくべきポイントと研修方法の事例をご紹介します。

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1. 教育企画のポイント

安全保障貿易コンプライアンスの教育を企画するために、法令遵守、CSR、リスクマネジメントの視点から、押さえておくべきポイントは、次のような内容です。

1-1. 法令遵守のポイント

日本の輸出規制には、リスト規制(貨物・技術の品目・スペックによる規制)キャッチオール規制(品目ではなく、需要者・用途に着目した規制)があります。リスト規制は、主に、開発・製造部門が対象であり、キャッチオール規制は、主に輸出営業部門、海外事業部門が対象になります。

実務責任者や担当者に対しては、輸出規制の目的、罰則などに加えて、規制の特徴により、 Do’s and Don’ts (何をすべきで、何をすべきでないか)を教育するプログラムが必要です。

日本の輸出規制

規制の種類

内容

対象

リスト規制

貨物・技術の品目、スペックなどによる規制

開発・製造部門など

キャッチオール規制

需要者や用途に関する規制

輸出営業・海外事業部門など

1-2. CSRのポイント

輸出規制の違反には、厳しい罰則(違反者の懲役、罰金等)があり、大量破壊兵器の開発や製造に転用できる高度な技術が流出することを最も厳しい違反と定め、改正外為法では法人に最高10億円の罰金を科す制度が盛り込まれました。これは、東芝の事業売却に関して、半導体などの技術がうかつに海外企業へと流出しないための対策として、取られた措置です。

輸出規制の違反企業は、経済産業省から警告を受け、企業名が経済産業省のサイトに掲載されます。さらに前述の日本航空電子工業のように、株主訴訟になることもあります。また、たとえば過去には東芝機械やダイキン工業など、著名な企業が輸出規制違反を犯して報道されたように、メディアなどでも大きく取り上げられます。

したがって、特に、経営幹部に対しては、安全保障貿易コンプライアンスの教育には、違反した場合の社会的な影響を理解できる教育プログラムが必要です。

参考)
東芝の事業売却に影響も 改正外為法が成立 安全保障技術の流出防止強化へ -(サンケイビズ)
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/170517/mca1705171740017-n1.htm
輸出管理令に違反すると、罰則はあるのか?(HUNADE – EPA/FTA・海外進出・貿易ガイダンス)
https://hunade.com/yushutukanri-bassoku

1-3. リスクマネジメントのポイント

輸出規制の違反企業には、最大、3年間の輸出禁止という行政制裁を受けるリスクがあります。輸出を主要事業としている企業にとっては、大きな経営的なダメージになります。

さらに、違反の事実によって、安全保障貿易管理コンプライアンスに取り組んでいる取引先や顧客からは、厳しい視点で取引のチェックを受けることになり、事業の継続にも影響が及びます。

また、経済産業省より輸出に関する包括許可制度(特定の貨物、一定の仕向地に対して、輸出を包括的に許可する制度)を受けている企業は、制度の維持への影響が考えられます。輸出企業にとって、包括許可制度は、輸出業務のスピードとコストの削減になります。ただし、輸出管理規定(コンプライアンスプログラム、Compliance Program:CP)作成と管理体制などの審査を受けて許可を取得しているため、違反すれば経済産業省から警告や行政処分を受け、許可を取り下げられる可能性もあります。つまり包括許可制度の継続が危ぶまれることになるのです。

円滑に進めていた輸出申告に影響があることは、輸出や海外事業の比率の高い企業にとっては、大きな経営的なダメージになります。

したがって、経営責任者から実務担当者まで、違反によるリスクを共通に認識する教育プログラムが必要です。

参考)
安全保障貿易管理**Export Control*包括許可
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/apply13.html

2. 教育設計のポイント

それでは、安全保障貿易管理コンプライアンスを実現するには、どのような教育を設計する必要があるでしょうか。

2-1. 違反事例の共有

輸出規制の違反事例は、経済産業省やCISTEC(一般財団法人安全保障貿易センター)のサイトに掲載されています。

CISTECが掲載している「不正輸出の概要」には、前述の日本航空電子工業の場合、違反者個人代表取締役、相談役、専務取締役、取締役支配人)が刑事罰(懲役2年、執行猶予3年)を受け、法人が罰金500万円に加え、行政制裁として、全地域、全品目の輸出禁止1.5年の処分を受けていることが掲載されています。

経営幹部から担当者に至るまで、どのような違反事例があるのか、違反に対する罰則など、具体的な事例を共有し、「なぜその事例が発生したか」を理解する必要があります。

参考)
外為法違反事例 (CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/export/ihanjirei/index.html
不正輸出の概要(CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/export/ihanjirei/fuseiyusyutu_jiken.pdf

2-2. 業務フローに合わせたチェック

実務責任者や担当者に対しては、業務フローに合わせて、リスト規制とキャッチオール規制のチェックポイントを知り、そのうえで、Do’s and Don’ts(何をすべきで何をすべきではいか)を学ぶプログラムを組むと有効です。

たとえば、キャッチオール規制に対応した顧客審査のチェックフローについて、次のような例があります。

原典)インダストリー営業グループの法務ネットワーク、一色正彦、松下電器産業(株)法務部法務課課長
図表4「輸出顧客審査フローチャート」、研究業書 No.111 法務リスクの増大と電子化に対応した戦略法務機能の強化と業務効率化、社団法人企業研究会、2000

この業務フローでは、禁止取引を「レッドカードビジネス」、審査取引を「イエローカードビジネス」、取引推進OKを「グリーンカードビジネス」と表示しています。最終的にグリーンに到達すれば問題なし、しかしレッドにたどり着くようであればアウトとなります。

業務フローに合わせた教育プログラムでは、社内の審査ルールをこのようにフローチャートで明示し、レッド、イエロー、グリーンカードビジネスには、それぞれどのような基準があり、なぜその基準で判断しなければいけないかを教育するプログラムが最適です。

3. 研修の実施例

それでは、業務フローに合わせた研修事例をご紹介します。業務フローには、ビジネスシーンごとに、輸出規制に対するチェックポイントがたくさんあります。そのチェックポイントを問題として、事例を用いた演習問題を作成します。

3-1. 事例問題による研修

たとえば、キャッチオール規制の需要者要件のチェックについて、ストック販売に必要な手続きを理解するための問題例は以下のようになります。

(問題例)

あなたは、輸出商品を担当する営業社員です。通常は、日本で生産した商品を日本から海外に輸出していますが、現地で商品に不具合があり、日本から代替品を送付していては間に合わなそうなので、シンガポールにストックしている商品を送りたいと考えています。ストック商品の輸出について、次のうち、適切な回答を選択してください。

1. ストックは、需要者が未確定であり、原則、需要者要件のチェックは不要である。

2. ストックは、用途が未確定であり、原則、用途要件のチェックは不要である。

(ア)1が正しい

(イ)2が正しい

(ウ)いずれも正しい

(エ)いずれも誤り

正解は、(ア)です。

これは、「キャッチオール規制とストック販売」に関する問題です。キャッチオール規制では、日本から輸出された商品の受領者や最終的な使用者が、大量破壊兵器の開発などを行っているか、または、過去に行ったか(需要者要件)と、日本から輸出された商品が、最終的に大量破壊兵器や通常兵器の開発などに使用されるおそれがあるか(用途要件)を確認し、いずれかに該当する場合は、輸出前に経済産業省の輸出許可を取る必要があります。ストック販売で需要者が未確定の場合は、需要者の確認ができないため、原則として、需要者要件のチェックは不要です。しかし、商品が民生品であっても、特定用途に専用で使用される民生品もあり、用途要件に該当する可能性はあります。そのため、用途要件のチェックは必要です。

1について、ストック販売は、原則として、需要者要件のチェックは不要です。(○)
2について、ストック販売でも、用途要件のチェックは必要です。(×)
したがって、1が正しいので、正解は(ア)となります。

原典)
安全保障貿易管理**Export Control*Q&A、キャッチオール関連 7.ストック販売に関する質問 より作成(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/qanda25.html

まず前提知識として、キャッチオール規制の内容について、eラーニングや講義で理解させます。そして、このような具体的なビジネスシーンに対して、輸出規制のチェックポイントを理解できる問題を作成し、研修で問題を解いてから、解答と解説を行う研修方法です。

ビジネスシーンから作成された問題は、下記の記事でご紹介したように、ステップ1(個人単位で議論)、ステップ2(グループで議論)、ステップ3(グループの見解を発表し議論)でのグループ討議の研修にも用いることができます。

独占禁止法違反を防ぐ研修のポイントとは 教育設計と研修事例をご紹介

具体的なビジネスシーンを当てはめることにより、業務フローに合わせたチェックポイントの理解が深まるのです。

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4. まとめ

安全保障貿易管理の教育では、「法令遵守」のポイントとして、リスト規制とキャッチオール規制を押さえておかなければなりません。リスト規制は、主に、開発・製造部門、キャッチオール規制は、輸出営業、海外事業部門が主な対象ですが、国内事業でも、海外出張やクラウドサービスを利用することがあり、幅広い対象者を想定した教育プログラムが必要となります。

「CSR」のポイントとして、輸出規制に違反した場合、厳しい罰則(違反者の懲役、罰金等)があり、経済産業省から警告を受けたり、企業名がサイトに掲載されること、株主代表訴訟を受けたり、著名な企業は、メディアで大きく報道されたりします。そのため、社会的に大きな影響を受けることを認識しておく必要があります。

「リスクマネジメント」については、輸出規制の違反企業には大きな経済的な損失が発生する可能性があることがポイントです。取引先や顧客から厳しい取引チェックを受けたり、包括許可により輸出業務を行ったりしている場合は、その許可に影響を受けるリスクがあります。

これらを教育する研修事例として、業務フローに基づいて、具体的なビジネスシーンから問題を作成し、選択肢を選ぶ方法をご紹介しました。これは、前提知識をeラーニングや講義で理解した後、具体的なビジネスシーンに対して、輸出規制のチェックポイントを理解できる問題を作成し、研修で問題を解いてから、解答と解説を行う研修方法です。
ステップ1(個人単位で議論)、ステップ2(グループで議論)、ステップ3(グループの見解を発表し議論)のグループ討議の研修にも用いることができます。具体的なビジネスシーンがあることによって、業務フローに合わせたチェックポイントの理解が深まるのです。

今回ご紹介した安全保障輸出管理の特徴との教育企画のポイントを参照し、自社に最適な安全保障貿易管理コンプライアンス教育に取り組んでください。

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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