コンプライアンスを 教える

PL法コンプライアンス教育で品質問題リスクを防ぐ 研修事例をご紹介

2022.1.5 更新

2017年、残念ながら複数の著名な企業で長期にわたる品質不正やデータ改ざん問題が発覚しました。日産自動車、神戸製鋼所、SUBARU、三菱マテリアル、東レの5社では、品質問題から生じた株式の時価総額の損失が合計1兆円にも達したことが報道されました。

これらの事例には「PL法(製造物責任法)」が関わっています。こうした問題に発展するのを防ぐにはやはりコンプライアンス教育の一環として社員にPL法の教育をしておくことが第一歩です。

PL法については、下記の記事で、製品の欠陥により、消費者が怪我をするなどの損害を与えてしまった場合に対する法律としてPL法があること、そして、PL法コンプライアンスのポイントは製品の安全性確保、リコールによる損害の拡大防止、保険によるリスクマネジメントであることをご紹介しました。

PL法違反の予防対策に事例学習 さらに模擬記者会見で有事に備える

PL法を学ぶことは、品質の安全性の確保と品質問題が発生した場合のリスクを認識するために重要です。そのためPL法の教育は、経営幹部から担当者まで、幅広く実施する必要があります。

今回は、下記の記事でご紹介した法令遵守+CSR・リスクマネジメントを踏まえて、PL法の教育を企画する際に、押さえておくべきポイントと研修方法の事例をご紹介します。

コンプライアンスとは 法令だけじゃない、CSRとリスクマネジメントの重要性

参考)
品質問題 代償は1兆円(日本経済新聞社、2017年12月31日掲載)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25205110Y7A221C1X11000/

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1. 教育企画のポイント

PL法は、ものづくりを担っている企業にとって、最も重要視しなければならない法律のひとつです。そのためには、法令遵守、CSR、リスクマネジメントについて特に注意を払うことが大切です。関わる社員や経営幹部、社長だけでなく、子会社などすべての関連ポジションを担う各人が徹底して理解しておかなければなりません。そのために必要な教育方法のポイントを順に見ていきましょう。

1-1. 法令遵守のポイント

製品の安全性確保は、メーカーの開発・製造部門の基本業務です。しかし、その実現には、企画や販売部門など、他の部門との連携が欠かせません。たとえば、PL法の欠陥には、「広告・表示の欠陥」という定義があります。これは、製品の安全性を確保するために正しく使うための警告表示を行わなければならないというもので、取扱説明書や警告ラベルなどは重要な書類として扱われます。これらに適切な警告表示を行うためには、企画・広報部門との十分な連携が必要となります。

また、取扱説明書や警告ラベルには適切な表示があっても、販売部門がそれを適切に販売先に説明しなければ安全性を確保できません。そうなると今度は、販売部門との連携も必要です。

このように、製品の安全性確保には、開発・製造・販売(開製販)の各部門がPL法を正しく理解し、品質安全を確保するための行動が求められますPL法の教育は、開発や製造部門に偏る傾向がありますが、企画・広報部門や販売部門など、関連する幅広い部門に対しても、教育プログラムを企画する必要があるのです。

1-2. CSRのポイント

不幸にも、製品の安全性の欠陥により事故が発生してしまった場合、初期対応が最も重要です。特に難しいのは、損害を拡大するために行うリコール(市場回収)するか否かの判断です。

「空飛ぶタイヤ」(池井戸潤著、実業之日本社文庫)は、実際に発生した大手自動車メーカーのリコール隠しを素材にして話題となった小説です。PL事故を拡大させないためのリコール判断は、人命にかかわるため、経営のみならず、企業の社会的な責任にも大きく影響します。

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リコールについては、どのような基準で誰が責任を持って判断するかをあらかじめ決めておくのが基本ですが、それだけでは不十分です。リコールの意思決定に関わる開発・製造部門のトップや情報開示に関わる企画・広報部門など、関係者のすべてが、PL法の基礎知識を適切に理解しておかなければ実行に移すことはできません。

したがって、CSRの視点からは、リコールリスクを認識して、関係する当事者にPL法の教育を行う企画を立てる必要があるのです。

1-3. リスクマネジメントのポイント

製品の安全性を確保するためには、重大事故の前に起こっている小さな事故やニアミスにも目を向け、迅速に対応する必要があります

下記の記事では、「1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故と300件のニアミスがある」という経験則「ハインリッヒの法則」をご紹介しました。

年間およそ200社が倒産!コンプライアンス意識を高めて会社を守ろう

参考)
マーケティング用語集「1:29:300の法則(ハインリッヒの法則)(j-marketing.net)
http://www.jmrlsi.co.jp/knowledge/yougo/my08/my0849.html

経営に大きな影響があるリコールに対しては、製品の事故に対する保険(PL保険)に加え、製品のリコールに対する保険(リコール保険)も掛けておく必要があります。また、最近はネットで情報があっと言う間に拡散しますが、そんなときのためにネット炎上をカバーする保険も提供されています。

リスクマネジメントは、リスクコントロール(リスクを制御しようとするアプローチ)とリスクファイナンス(リスクに資金的な手当てを使用とするアプローチ)から構成されています。PL法コンプライアンスを実現するためには、上記のようなさまざまな保険についても知っておくことが大切です。

保険とはどのような仕組みであるかを理解した上で、保険により何ができて、何ができないか、どのぐらいのコストが掛かり、どの程度のリスクがカバーできるのかを、前もって知っておきましょう。また保険を掛けている場合でも、保険会社との契約書には、保険会社への報告義務など会社ごとに手順が決まっています。その内容を適切に理解していないと保険を掛けていても、有効に使えないことがあります。

保険の内容と申請手順などについて適切に理解しておくことにより、PL事故が発生しても、損害を拡大するためのリコールを実施すると決断した場合の経済的なダメージを軽減することができます。

そのため、リコールの判断を行う関係者には、保険に関する基礎知識と付保している保険の条件を理解できる教育プログラムが必要になります。

2. 教育設計のポイント

それでは、PL法を学ぶためにはどのような点に注意すればよいでしょうか。ここでは、PL法の教育プログラムを設計するための具体的なポイントを挙げていきます。

2-1. 欠陥の基準

PL法が定義している製品の欠陥には、

  • 「製品自体の欠陥」(安全設計・安全装置の不備等、原材料・部品の品質管理、検査の不備等)
  • 「広告・表示の欠陥」(取扱説明書・警告ラベル等の欠陥、カタログ・宣伝広告、販売員の口頭説明の欠陥等)

この2つがあります。

製品の欠陥については、主に開発・製造部門が教育対象となります。一方、広告・表示の欠陥については、企画・宣伝・営業部門が主な教育対象です。

しかし、製品の安全性を確保するためには、すべての部門が連携して取り組む必要があります。そのため、すべての部門がPL法の基礎知識を理解するだけでなく、自部門が主に担当する内容については具体的なDo’s and Don’ts(何をすべきか、何をすべきでないか)のレベルまで詳しく理解しておくことが大切です。

2-2. 研修の対象部門

PL法の事故が発生した場合には、PL事故の直接当事者巻き込まれる関係者という、ふたつの対象が発生します。PL法の対象となる製造者等は、①製造、②加工、③輸入、④表示に関する企業です。このうち、直接当事者(Aグループ)は、設計デザイン・組立て・加工・付属品・部品・材料・海外生産・OEM生産・広告宣伝を担当した企業です。一方、後者のPL事故に巻き込まれる可能性がある業種(Bグループ)には、販売会社等、販売店等、運送会社、サービス会社が含まれます

Aグループでは、海外生産やOEM生産の場合、PL法の製造者等としてのPL責任(無過失責任)が問われます。PL責任とは、故意や過失に関係なく課せられる賠償責任のことです。しかし、Aグループの中には、そのリスクを認識していない対象者が多いのです。たとえば、海外から輸入した製品が日本でPL事故を起こした場合、製造者ではなく輸入業者がPL責任を負います。プライベートブランドやOEM製品などで、製品の開発や製造は行っていないが自社のブランドとして表示している製品にPL事故が発生した場合も、製造や開発者ではなくブランドを表示している事象者がPL責任を負います。

筆者があるメーカーの部品・デバイス部門でPL法の教育プログラムを企画したときには、自社の営業部門はもちろん、販売代理店にもPL法の啓発教育を徹底しました。また、取引のある輸入業者やOEM先には、PL法の直接当事者として認識した教育が必要であることを説明し、教育プログラムの例を紹介しました。

つまり品質の安全性確保には、製品の開発・製造から、販売、代理店からOEM先に至る川上から川下までの共通認識と連携が必要なのです。

3. 研修の実施例

それでは、PL法の基礎知識はどのように学習する方法が効果的なのでしょうか。実施例を挙げていきましょう。

3-1. Q&A作成演習

下記の記事では、リコールのリスクを認識するために有効な「模擬記者会見によるゲーム型のシミュレーション・トレーニング」をご紹介しました。リコールは、告知効果を上げるため、また利害関係者に対する会社の企業姿勢を示すために、記者会見が行われることがあるので、そのためのシミュレーションをしておくことは重要です。

PL法違反の予防対策に事例学習 さらに模擬記者会見で有事に備える

さらに、PL法コンプライアンスには、川上から川下まで多くの部門が関わります。そのため、各部門の当事者は、PL法の基礎知識がわかっても自分たちがどのように関係するのか、どのような場合にPL責任が問われる可能性があるかに疑問を持つこととなります。

PL法のQ&A作成演習は、そのような疑問をQ(Question)として集めて、A(Answer)を作成する演習です。PL法の基礎知識を「基礎編」、製品に関しては「製品編」、販売に関しては「販売編」として分類します。たとえば、代表的なQ&Aは次のような問題です。

(問題例)

基礎編Q
製品の欠陥によりPL事故が発生した場合、誰が責任を負うのですか?
A:PL責任(無過失責任)は、欠陥品を作った製造者、OEM品の場合は製品の表示者、輸入品の場合は輸入業者が対象です。しかし、販売者等も、過失がある場合(民法の過失責任)は、責任を問われることがあります。

製品編Q
品質マネジメントシステムのISO 9001に認定されている製品は、PL事故が発生した場合でも、PL責任が免責されることがありますか?
A:対象外にはなりません。ただし、ISO9001が要求する品質システムは、製品の安全設計に活かせるため、PL事故の予防には役立ちます。

販売編Q
警告表示で禁止されている製品の使用方法について、顧客の強い要望で、その通りの使用を認めたことによりPL事故が発生した場合、製品の製造者にPL責任はありますか?
A:要望通りに使用すると危険が予想される場合は、製造者が顧客に対してその危険を警告し、必要な防止策をとったか否かにより、PL責任が問われることがあります。

このようなQ(Question)を用いて、次のような手順でA(Answer)を作成していきます。

ステップ1
PL法について、eラーニングや講義などにより基礎知識を聞いた後、これらの問題例を示し、研修参加者が各自で、それぞれの職種や経験からPL法について疑問に思うQを考えます。

ステップ2
次に、議論がしやすい4~5名程度のグループで、お互いが考えたQを持ち寄り、情報を共有します。そして、なぜ、そのQを選んだのか、どのような疑問点を持っているかを議論します。時間を決めて、一定数のQ(例えば、各グループ5問など)をグループ単位で作る方法もあります。

ステップ3
次に、グループ単位で、各Qに対して、Aの案を議論します。グループでAについて、どのような議論をしたかを発表し、講師を交えて議論する方法と、グループで統一見解のAを決めて発表する方法があります。

このプロセスにより、講師からQ&Aの説明を受けるよりも、自分たちがQを考え、Aの案を議論することでPL法の基礎知識の理解が深まります

PL法コンプライアンスは、製品の開発・製造から、販売に至るまでの各当事者が、PL法の基礎知識を持ち、製品安全を確保するための行動をすることにより実現します。

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4. まとめ

PL法の教育では、「法令遵守」のポイントとして、製品の安全性確保が基本であり、その実現のためには、開発、製造から、販売に至るまでの関係者が連携しなければなりません。そこで、関係部門に対して、PL法の基礎知識を教育するプログラムが必要になるのです。

「CSR」のポイントとしては、リコールへの対応が最も重要です。リコールについては、どのような基準にしたがって誰が責任を持って判断するかを決める必要があります。その上で、リコールの意思決定に関わる開発・製造部門のトップや情報開示に関わる企画・広報部門など、関係者がPL法の基礎知識を正しく理解しておくことが大切です。

「リスクマネジメント」については、リコールに対応した保険によるリスクマネジメントを検討しておくことがポイントです。保険を理解し、適切に活用することで、PL事故によってリコールが発生した場合のダメージを軽減できることから、PL法コンプライアンスを実現するには保険についてよく理解しておく必要があります。

PL法の欠陥には、「製品自体の欠陥」と「広告・表示の欠陥」があります。教育を企画する場合には、欠陥の定義を理解するとともに、製品の欠陥については開発・製造部門に、広告・表示の欠陥については宣伝・営業部門に対して、具体的なDo’s and Don’ts(何をすべきか、何をすべきでないか)教育をするプログラムを企画すべきです。

これらを教育する研修例として、Q&A作成演習をご紹介しました。PL法を基礎編、製品編、販売編に分けて、Q(Question)を考えるだけでなく、自分たちでA(Answer)を議論しながら考えることは、PL法の基礎知識に加え、自分たちの業務にどのように影響があるのか、さらにDo’s and Don’ts(何をすべきか、何をすべきでないか)を理解するために有効な研修方法です。

今回ご紹介したPL法の特徴と教育企画のポイントを参照し、自社に適切なPL法コンプライアンス教育に取り組んでください。

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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