コンプライアンスを 教える

下請法コンプライアンス研修はこうする 事例で教育する効果的な対策

2023.10.17 更新

「下請法」(下請代金等支払遅延防止法)は、独占禁止法が規制している「不公正な取引方法」において、企業の下請取引に対する特別法です。

従来の下請法の学習対象は、これまで一般的に下請けとして発注されてきた製造、技術、デザイン部門などが中心ですが、以前ご紹介した下記の記事では、副業・兼業の開放により、下請法の対象であるフリーランスのような独立事業主の活用が広がり、下請法の対象取引と部門が増える可能性をご紹介しました。

下請法とは?わかりやすく解説 歴史や特徴、最新課題、法改正まで!

下請法は、下請取引の具体的な実務に対する義務や禁止行為を定めており、法律の概念を理解するだけでなく、業務プロセスに落とし込んだ場合、どのような行動が違反や罰則の対象になるのかという具体的な内容の理解が必要です。

今回は、「法令遵守+CSR・リスクマネジメント」を踏まえて、下請取引の具体的な業務を理解し、下請法コンプライアンスを実現するための教育企画のポイントと研修事例をご紹介します。

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1. 下請法 研修企画のポイント

下請法の教育を企画するために押さえていくべき内容は、法令遵守、CSR、リスクマネジメントそれぞれによって異なります。そこで、順を追って必要なポイントを見ていきましょう。

1-1. 法令遵守のポイント

下請法は、下請事業者の利益を保護するための法律であり、独占禁止法の特別法です。下請取引の発注者(親事業者)には、具体的な義務と禁止事項が定められています。そのため、発注者側の義務と禁止事項を具体的に理解する必要があります。

たとえば、発注者の義務には、発注書面の交付や保存の義務、支払期日を決める義務などがあります。また、禁止事項には、受領拒否、支払遅延、返品の禁止などがあります。

下請法では、実務的な義務と禁止事項が細かく定められています。そこで、これらを具体的な実務に落とし込んで、実例などを踏まえながら内容を理解するプログラムが必要です。

参考)
下請法の概要(公正取引委員会)https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html
下請代金支払遅延等防止法(中小企業庁)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/daikin.htm

1-2. CSR(企業の社会的責任)のポイント

独占禁止法を運用する行政機関である公正取引委員会は、下請法も担当しています。

もし下請法に違反する行為が見つかった場合、下請法に違反して是正の勧告等を受けた企業名を、公正取引委員会のホームページで公開しています。

違反企業として社名が公開されることは、企業の著しいイメージダウンにつながり、その後の取引について何らかの不利益が発生する可能性も高くなります。また、親事業者が下請事業者に対する義務を怠った場合には、罰金が課せられることもあります。

参考)
下請法勧告一覧(公正取引委員会)http://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukekankoku/index.html
下請法に違反するとどんなペナルティがある?(顧問弁護士相談広場)https://www.komonhiroba.com/subcontracting-law/subcontracting-law-violations.html

1-3. リスクマネジメントのポイント

下請法は、公正取引委員会だけ担当しているわけではなく、中小企業庁も加わり、親事業者と下請事業者に対して毎年書面で調査を行い、必要とあらば立入調査も実施するなど、下請取引を適性化する活動をしています。

下請法の対象は、企業間の日常の取引であり、仮に、その内容に違法性があったとしても、外部からは分かりにくい傾向があります。そのため、公正取引委員会や中小企業庁には、下請先が不当な扱いを受けた場合の相談窓口が準備されています。

また、公正取引委員会や中小企業庁は、下請先に対して、下請法上問題のある行為を発注側から受けていないかについて、定期的にアンケート調査を行っています。これらの情報に基づき、問題があると思われる企業に対しては、公正取引委員会が立入調査を行うことがあります。

下請取引を行う部門は、下請法の十分な基礎知識の啓発教育とともに、書類を保存するなど下請法で求められる義務を守り、外部からの突然のチェックに対しても速やかに対応できる体制を取っておく必要があります。そのためにも、発注者側の義務と禁止事項を具体的に理解できるプログラムを実施しておかなければなりません。

以上のように、下請法コンプライアンスを実現するためには、法律が定める義務と禁止事項を、具体的な業務に落とし込んで理解する必要があります。併せて、違反して企業が受ける社会的な影響や調査を受けた場合に、どの部分が違反に該当したのかを早急に把握し、どう取り組むかの対処方法を理解するプログラムが求められます。

参考)
企業のルール違反にイエローカード! 公正取引委員会の役割(公正取引委員会)https://www.jftc.go.jp/ippan/part3/about.html
定期書面調査(公正取引委員会)http://www.jftc.go.jp/shitauke/shitauke_tetsuduki/chosa.html
平成29年度「下請事業者との取引に関する調査」を実施します(中小企業庁)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2017/170929ShitaukeSearch.htm
下請かけこみ寺(中小企業庁)http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.htm

2. 下請法の教育設計のポイント

それでは、発注者の義務と禁止事項を具体的に理解するには、どのような教育を設計する必要があるでしょうか。

下請法の教育設計をする際に、押さえておくべきポイントをご紹介しましょう。

2-1. 業務フローに合わせたチェック

下請法の規制は、発注行為を中心に実務的な内容が多いため、取引開始前の段階から取引完了までの業務フローに合わせて、Do’s & Don’ts(何をすべきで何をすべきではないか)を具体的に示して学ぶ方法が有効です。

たとえば、各段階で理解しておくべきチェックポイントは、以下のようになるでしょう。

取引開始前には、まず資本金と取引内容から、取引が下請法の対象となるか否かをチェックしておく必要があります。取引交渉の段階では、発注を口頭のみで行って書面発行義務が漏れていないかなどをチェックします。そして、取引完了段階では、支払の遅延がないか、書類の保存義務を満たして管理しているかなどのチェックを行います。

下請法の理解には、業務フローの段階に合わせてチェックポイントを理解し、そのうえで、Do’s & Don’ts(何をすべきで何をすべきではいか)を学ぶプログラムを設計すると効果があるでしょう。

2-2. 研修の対象部門

下請法の対象になるか否かは、事業者の資本金規模と取引内容で決まります。具体的には、以下の内容です。

物品の製造・修理委託は、社外に部品や材料を発注したり、修理を依頼する技術、製造、サービスなどの部門が主な研修対象になります。

情報成果物は、プログラムの作成や情報処理が対象ですので、技術や企画部門が主な対象となります。役務提供には、運送や倉庫保管が対象ですので、工場やサービス部門が主な対象となります。

なお、個人事業主に業務を依頼する場合、下請法の対象になることが多いので、注意が必要です。たとえば、コンピュータープログラム作成や有償カタログのデザインなどの依頼は下請法の対象になります。

従って、幅広い部門で下請法を教育するプログラムが必要になります。

参考)
下請法の概要(公正取引委員会)https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html
フリーランスで働く人は、「下請法」で守られているーおさえておくべきポイントとは?https://www.bengo4.com/other/1146/1288/n_1858/

3. 下請法研修の実施例

それでは、業務フローの段階に合わせて、チェックポイントを具体的に理解できる研修の事例をご紹介します。

下記の記事では、発注書サンプルを用いたシミュレーション・トレーニングの方法をご紹介しました。発注は下請取引の日常業務ですが、下請法のルールを守らないとトラブルが発生しやすい業務です。そこで、下請法上いくつか問題のある発注書サンプルを用意して、グループで議論しながら、その中から間違い探しをする演習方法をご紹介しました。この方法は、チェックポイントを具体的に理解するために有効な教育プログラムです。

コンプライアンス事例の使い方(2) 自社事例を教育に有効活用するには

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今回は、業務フローに合わせたチェックリストを作成することにより、さらに、下請法の理解を高める教育プログラムの事例をご紹介します。

3-1. チェックリストの作成

このプログラムを簡単に説明すると、eラーニングや講義等により、取引開始前から取引完了までに必要なチェックポイントを学習した後、その知識を用いて、下請法違反にならないためのチェック項目を考え、チェックリストを作成する演習です。

まず基礎知識のeラーニングや講義の後、社員が自分たちでチェック項目を考えます。チェック項目の具体例を複数示し、ランダムに並べて、各段階に、適切なチェックポイントを並べ替える方法も効果があります。

3-2. リスト項目のグループ議論

最初は、個人単位でチェック項目の案を考えたうえで、グループ単位で各自の案について意見交換し、グループで統一のチェックリストを作成します。そのうえで、各チェック項目において、Do’s & Don’ts(何をすべきで何をすべきではいか)を議論して、業務フローの段階ごとに、具体的なチェック項目を決めます。

次に、各グループがどのような議論からその結論に至ったのか、なぜその内容が必要だと考えたのかを発表します。講師はその内容を比較しながら、各ポイントに漏れがないか、適切かなどを下請法の義務や禁止事項に照らして、コメントし、解説します。

通常、法務部やコンプライアンス部門が下請法チェックリストを作り、対象部門に提示しても、内部監査などのときにチェックするのみで、個々のチェックポイントを日常業務において理解できていないため、漏れてしまう場合が多くなります。このプログラムは、そうした漏れから発生するトラブルを招かないために、自分たちの業務にはどのような着眼点が必要かを具体的にアドバイスするものです。

最後に解説編として、自社のチェックリストを提示します。本演習は、主催する法務部やコンプライアンス部門にとっても、チェックリストの項目に漏れがないか、実際に運用する際の課題を収集し、実効性の高いチェックリストに改善するための有効な機会になります。

またこの演習では、研修参加者がチェックリストの項目を自ら考えて作るため、各項目の理解が深まり、下請法コンプライアンスを踏まえた日常業務を行うための教育としてお勧めです。

この方法は、一方的に聞くタイプの学習と比較すると、まず自分で考え、次に参加者同士が議論するアクティブ・ラーニングの手法を取り入れているため、高い学習効果が期待できます。

アクティブ・ラーニングについては、言葉による受信や視覚による受信のような能動的な学習方法の場合、2週間後、長期記憶に残っているのは10~20%であるのに対し、ディスカッションに参加する、スピーチをする、実際に自分で体験するなど、能動的な学習方法の場合は70~90%に向上します。

コンプライアンスに事例学習が効く!意識を底上げする取り組みを解説

下請法の教育においても、議論しながら理解を深める方法は高い学習効果が期待できるので、そのプロセスを組み込んだ教育を企画する方法がお勧めです。

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下請法違反に該当するケースでも、立場上、下請事業者側からは指摘しづらい現実があります。そのため、特に発注者側が正しい知識とコンプライアンス意識をしっかりと持つ必要があります。

こちらのeラーニングコースは、企業のコンプライアンス業務に30年以上携わっている一色正彦氏監修のもと、クイズや文字の少ない構成で下請法の適用範囲や禁止行為・違反への罰則などをわかりやすく学習できるよう構成されています。

また、実際の事例をもとにケーススタディを行うことで、業務上の注意点や自身の言動に注意を払えるようになり、ルールを守った健全な下請取引を行えるようになります。

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4. まとめ

下請法の教育では、「法令遵守」のポイントとして、発注者側の義務と禁止事項を具体的に理解する必要があります。

また、「CSR」のポイントとして、下請法に違反する行為が見つかり、公正取引員会から是正の勧告等を受けた場合には、その事実が公正取引委員会によってホームページで公表されるため、企業のイメージダウンにつながります。

「リスクマネジメント」のポイントは、下請法の問題がないかについて、公正取引委員会や中小企業庁は、相談窓口を設け、定期的に書面調査をしている点です。疑いがある場合、立入調査を受けるリスクがあることを理解しておくことが必要です。

教育を企画する場合、これらのポイントを押さえたうえで、取引開始前から、取引交渉、取引推進、取引完了までの具体的なビジネスシーンにおいて、業務フローに合わせて、チェックポイントを理解しておく方法が効果的です。

また、下記の記事でご紹介した、発注書サンプルの間違い探しのシミュレーション・トレーニングに加えて、下請法チェックリストの作成と議論により、具体的なチェックポイントを考えて理解する演習がお勧めです。

コンプライアンス事例の使い方(2) 自社事例を教育に有効活用するには

コンプライアンス事例の使い方(2) 自社事例を教育に有効活用するには

これらを研修参加者が議論することによって、一方的に聞くタイプの学習と異なり、自ら考えて学習するアクティブ・ラーニングの特徴を生かした高い学習効果が期待できます。

今回ご紹介した下請法の特徴との教育企画のポイントを参照し、自社に最適な下請法のコンプライアンス教育に取り組んでください。

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )、日本工業大学(NIT)大学院 客員教授(技術経営研究科)
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある。

執筆者プロフィール

まるでゲームを攻略するように
コンプライアンス教育に
取り組めるよう、
無料のeBookを作りました。

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