コンプライアンスを 学ぶ

コンプライアンス問題を防ぐ「契約書」チェック 法律別のポイントとは

2022.1.5 更新

あなたの会社がコンプライアンス(法令遵守)を強化するとしたら、まず見直されることの一つが「契約書」のチェック体制ではないでしょうか。

次のような状況を想像してみましょう。
「過去にA社と技術提携した際に契約した内容に問題があり、その後、独占禁止法の問題に発展してしまった」
「以前から下請先と慣習的に行っていた契約方法が、下請先に対する公正取引委員会のアンケートで発覚し、下請法違反として勧告を受けた」

これは、どの企業でも絶対に避けたい事態だと思います。
そのために、コンプライアンスを担当する法務部の基本業務には、「契約・法律相談」を受けることが含まれています。契約内容に問題がないか、社内で相談できる体制が不可欠だということです。

この業務は、「予防法務」(コンプライアンス問題の潜在的なリスクを分析し、そのリスクに対して適切に対応できる仕組みや仕掛けを長期的な視点から計画を立て、準備しておくことによって組織的にコンプライアンス問題の発生を予防するアプローチのこと)を実現するためにも重要な業務です。

法務部の規模や人員体制によっては、契約・法律相談の業務とコンプライアンスを同じ法務部員が担当している場合と担当していない場合がありますが、いずれにせよ、予防法務を実現するためには、法務部員が両方の業務の関連性を理解し、契約・法律相談から得た情報をコンプラインス実現に活用することが重要です。

それでは、法務部員が行う契約の審査やドラフト(草稿)作成、そして、それに関連した法律相談とコンプライアンスはどのような関係にあり、担当者は何をチェックすべきでしょうか。

今回は、コンプライアンスの実現、特に、予防法務のために必要な契約・法律相談業務とコンプライアンスとの関係性および契約・法律相談から得た情報をコンプライアンスに活用する方法について、ご紹介します。

参考)「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」、2018、経済産業省、<図1> 法務関連業務
http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf

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1. コンプライアンスと契約の関係

契約書作成は、ビジネスをするうえで避けて通ることのできない業務ですが、契約にはどのようなリスクがあり、どこに気を付ければよいのでしょうか。

1-1. 契約から見るコンプライアンスのリスク

契約は、申込と承諾の意思表示の合致によって成立し、口頭でも成立します。
しかし、ビジネスの契約では、後で「言った」「言わない」という理解の違いなどから生じる紛争のリスクを避けるために、契約書を作成するのが通常です。

契約書には次のような性質があります。

契約書は、「取引の内容」と「取引が当初の想定と異なる結果となった場合のリスク分担」に関する当事者間の合意を明確にし、かつ、その証拠となります。

原典)
「事業担当者のために逆引きビジネス法務」、塩野誠、宮下和昌著、東洋経済新報社、2015、P.77

ここからわかるように、まず契約書の条文には、双方の合意内容が記載されます。そのため、法務部員は、その内容がコンプライアンスの視点から、問題があるかないかを審査する役割を担うことになります。

また契約案件の検討は、依頼を受けた取引について、コンプライアンスの潜在的なリスクが含まれているか否かについて、チェックする大切な機会でもあります。このタイミングで見逃してしまえば、その契約内容のままビジネスは進行し、問題がいつか顕在化してしまうかもしれないからです。

たとえば、独占禁止法などは、コンプライアンス問題が発生した場合のリスクの大きい法分野なので、まず契約案件の相談を受けた時点で、潜在的なリスクがないかを慎重にチェックする必要があります。

1-2. 契約別のチェック例

それでは、コンプライアンスに関連する法律と契約の関係、そして、注意すべきチェックポイントの例を見てみましょう。ここでは、独占禁止法、下請法、反社条項の例を取り上げます。

① 独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」)

企業同士は、技術、生産、資本、販売など、多様な場面で提携してビジネスを行っています。主な提携例と関連する契約は、次のような内容です。

・技術提携―ライセンス契約(特許、著作権、商標権等)、共同研究開発契約等
・生産提携―製造委託契約、技術支援契約等
・資本提携―合弁契約、出資契約、株主間協定等
・販売提携―販売代理店契約、販売委託契約、サービス委託契約

原典)
「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー」、一色正彦、竹下洋史著、第一法規、2018、P.187

これらの提携契約では、独占禁止法のうえで問題となる約束や契約条件がないかのチェックが必要です。

たとえば、既存の技術では競合関係にある企業同士が、将来の技術について、共同研究開発契約を締結して、提携を行う場合があります。その共同研究開発契約の場合、共同開発の成果物の取り扱いや共同開発が終了した後の将来の事業に対して、競争を阻害するような拘束条件が約束されていないかをチェックする必要があるでしょう。

参考)
共同研究開発に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/kyodokenkyu.html
独占禁止法違反となる共同研究開発後の拘束条件付取引とは (BUSINESS LAWYERS)
https://business.bengo4.com/practices/674

② 下請法(「下請代金支払遅延防止法」)

下請法の対象となる取引先への業務委託契約については、下請法に違反するリスクがないかをチェックする必要があります。

たとえば、メーカーが部品の製造を委託する下請取引について、有償で支給する原材料の代金を、その材料を組み込んだ部品を受領する前に支払う条件を契約していた場合は、下請法の違反になります。
また、ソフトウェアのような情報成果物の作成を依頼する下請取引について、情報成果物に関連する知的財産を無償で譲渡する条件が契約されていた場合も、下請法の違反になります。

参考)
わかりやすい下請法のまとめ 契約書で下請法違反をしないために – わかる!使える!契約書の基本(竹永行政書士)
http://takecyankun.hatenablog.com/entry/2018/11/05/043313

③ 反社条項

2007年に法務省から、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が公表されて以来、暴力団、総会屋など反社会的勢力との取引関係を遮断することは、企業のコンプライアンスにおいても重要事項になっています。

最近では、反社会的勢力との取引を行わないこと、また、疑義がある場合は契約を解除する条件などを約束した、いわゆる「反社条項」が契約に明記されることが多くなりました。さらに、地方公共団体が暴力団排除条例を制定し、事業者に一定の努力義務を課す例が増えています。

たとえば、東京都は、東京都暴力団排除条例において、事業者が事業に関して締結する契約が「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認められる場合」に、契約の相手方が暴力団関係者ではないかを確認するように努める旨を定めています。(第18条1項)

参考)
企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について(法務省)
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
東京都暴力団排除条例 Q&A(警視庁)
https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/kurashi/anzen/tsuiho/haijo_seitei/haijo_q_a.html#cmskeiyaku

これらは代表例ですが、契約案件の検討については、関連する法律に照らして、コンプライアンス問題の潜在的なリスクがあるか否かをチェックする必要があります。また、契約案件の依頼を受けたときが、法務部員にとってリスク分析をする重要な機会です。

2. 契約案件の活用例

このように、契約に関する法律相談やドラフト作成の依頼をきっかけとして、対象の案件にコンプライアンス問題の潜在的なリスクがあるか否かを調べることができます。

ここで、筆者がリーガルマネージャーとして担当していた法務部で、契約案件をリスク分析し、予防法務に取り組んだ事例をご紹介します。

2-1. 契約案件の分析

リスク分析をするうえで大切なのは、データの管理です。
そのために、まず、法律相談や契約のドラフトの作成依頼を受けた契約案件について、基本的なデータを統一したフォームで管理します。次の表は、契約案件の管理台帳のイメージ図です。

原典)
「法律を守り、企業価値を高めるコンプライアンス経営のための教育 ~eラーニング+集合研修のハイブリッド研修プログラム」、松下電器産業㈱インダストリー営業本部法務グループ 一色正彦、ライトワークスサマーセミナー2003 配布資料

契約案件の受付日、回答日、契約の種類などを依頼部門ごとに基本データとして管理します。さらに、その後、その案件がどのように進行したかを随時、記録します。この契約案件管理表により、依頼をしてきた担当部門では、通常、どのような案件が進行しているかを把握することができます。

法務部の契約審査は、依頼部門に回答して終了するだけではありません。実際のビジネスは回答後の相手先との交渉やビジネスの状況により進展していきます。相談を受けた段階で潜在的なリスクが含まれる取引であることがわかった案件については、依頼部門に初期対応のアドバイスをしたうえで、その後のビジネスの進捗についても、重点的にフォローする必要があります。そのために、基本データを一元管理しておくことによって、どの案件に重点をおいてフォローすればよいかを効率的に把握できます。

また、この管理台帳を元に、コンプライアンス問題のリスクに対してどのような初期対応を行ったかを記録しておくことにより、リスクコントロールをするためのナレッジの蓄積にもなります。

2-2. データ分析とフォローアップ

さらに、一定期間蓄積した契約案件データや月次などの定期的な契約案件の依頼状況を分析することによって、もう一歩先の取り組みが可能になります。
ここでは分析データの活用方法をご紹介します。

まず次に示すグラフは、データ分析のイメージ図です。2-1でお見せした基本データから、受付数を本部別・種類別にグラフ化したものです。

原典)
「法律を守り、企業価値を高めるコンプライアンス経営のための教育 ~eラーニング+集合研修のハイブリッド研修プログラム」、松下電器産業㈱インダストリー営業本部法務グループ 一色正彦、ライトワークスサマーセミナー2003 配布資料

これらの分析データの活用方法をご紹介しましょう。

たとえば、ある特定の取引先や担当部門で、通常よりも共同研究開発契約の依頼が増えている傾向がわかったとします。新規のビジネスが拡大しているのは良い傾向です。しかし、案件数の増加傾向から、競合先との提携において、独占禁止法上で問題のある拘束条件が発生していないかどうかなどを重点的にチェックします。

また、担当部門に独占禁止法の研修を実施することによって、コンプライアンス問題の発生を予防する取り組みを行います。分析した結果や重点的にチェックした内容は、今後の予防対策に向けたコンプライアンス研修の教材として活用することもできます。

契約案件に関連する相談やドラフト作成依頼を通じて、このような取り組みを継続することにより、取引の実態を把握することが可能です。コンプライアンス問題が発生するリスクがある場合には、適切な初期対応を取ることができるため、リスクを軽減することが可能です。また、これらの取り組みを通じて蓄積した事例をコンプライアンス研修活用すれば、実践的な予防法務に繋げることができます。

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契約は、ビジネス上の約束そのものです。この記事のとおり、書面はもちろん、口頭でも成立します。契約を締結する際には、当事者意識を持って、どのような条件について合意するのかを十分検討し、理解することが重要です。
本教材では、ビジネスで必要となる契約の基本的な考え方や概念を学習し、ケーススタディで実務的な知識を身につけることができます。

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3. まとめ

法務部の基本業務である「契約・法律相談」は、コンプライアンスの視点から、予防法務を実現するためにも重要です。契約書は、契約の当事者間の合意であり、取引が当初の想定と異なる結果となった場合のリスク分担に関する証拠でもあります。従って、契約案件を分析することは、対象の取引において、コンプライアンスの潜在的なリスクがあるか否かを判断するための有益な情報になります。

コンプライアンスに関する法律と契約について、独占禁止法と共同研究開発契約、下請法と下請取引の違反事項、反社条項と契約の問題について、関係性とチェックポイントの例をご紹介しました。契約案件を検討するときには、関連する法律に照らして、コンプライアンス問題の潜在的なリスクがあるか否かをチェックする必要があります。

契約案件の管理し、データ分析することにより、活用した事例をご紹介しました。契約案件は、各案件の進捗状況や特徴などを継続的に分析することにより、コンプライアンス問題の発生を予防する予防法務の有益情報として活用することも可能です。また、各案件の情報をコンプライアンス研修の教材として活用することも可能です。

今回ご紹介した契約案件を通じたコンプライアンスの取り組みを参考に、自社の適切なコンプライアンスの実現に取り組んでください。

  • 「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」、2018、(経済産業省)http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf
  • 共同研究開発に関する独占禁止法上の指針(公正取引委員会)https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/kyodokenkyu.html
  • 独占禁止法違反となる共同研究開発後の拘束条件付取引とは (BUSINESS LAWYERS)https://business.bengo4.com/practices/674
  • わかりやすい下請法のまとめ 契約書で下請法違反をしないために – わかる!使える!契約書の基本(竹永行政書士)http://takecyankun.hatenablog.com/entry/2018/11/05/043313
  • 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について(法務省)http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html
  • 東京都暴力団排除条例 Q&A(警視庁)https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/smph/kurashi/anzen/tsuiho/haijo_seitei/haijo_q_a.html#cmskeiyaku
  • 「事業担当者のために逆引きビジネス法務」、塩野誠、宮下和昌著、東洋経済新報社、2015、
  • 「契約書作成の基礎と実務 紛争予防のために」植草宏一著、松嶋隆弘編著、青林書院、2012
  • 「法律を守り、企業価値を高めるコンプライアンス経営のための教育 ~eラーニング+集合研修のハイブリッド研修プログラム」、松下電器産業㈱インダストリー営業本部法務グループ 一色正彦、ライトワークスサマーセミナー2003 配布資料
  • 「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー」、一色正彦、竹下洋史著、第一法規、2018
  • 「インダストリー営業グループの法務ネットワーク」、一色正彦、松下電器産業㈱ インダストリー営業本部 法務部法務課長、社団法人企業研究会刊、2000、研究業書 No.111 「法務リスクの増大と電子化に対応した戦略法務機能の強化と業務効率化」

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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