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アクションラーニングとは 効果と注意点、進め方の事例をご紹介

2022.1.5 更新

「アクションラーニング」という言葉をご存じでしょうか。GEなどの大企業からベンチャー企業に至るまで導入されている話題の教育方法です。

アクションラーニングとは、現実の課題をケースとしてその解決に取り組むグループワークの一種です。
経営課題の解決とリーダー候補の育成を兼ねた具体的な学習方法であり、eラーニングを用いた教育施策を設計するにあたり、ぜひ知っておいていただきたい手法の一つです。

“組織の上下関係をとっぱらって、自由に、素朴に、自発的に問いを立てながら、本質的かつ創造的な仕事を進めていくコミュニケーション”のトレーニングとされています[1]。またジョージワシントン大学大学院でアクションラーニングの手法を学び、日本に紹介したNPO法人日本アクションラーニング協会の清宮普美代代表は、アクションラーニングについて次のように述べています。

アクションラーニングこそ質問会議のエンジンなのです。このエンジンを使うと、組織の課題解決を行うなかで、自分もまわりも成長する仕組みが働きだします。チーム活動が自律的に起こり、チーム内のコミュニケーションも格段によくなる。おまけに、一人で考えるのではなく、みんなで考えることで、問題解決策もより効果的になるし、何より、みんなのモチベーションが上がります。

出典)
「質問会議 なぜ質問だけの会議で生産性が上がるの?」、清宮普美著、PHP研究所、P5

このアクションラーニングは、コンプライアンス教育にも活用することができます。特に、学習のモチベーションが上がりにくい分野ともいえるコンプライアンス教育では、「受講者のモチベーションを刺激する」ことができる点が有効なのです。

今回は、アクションラーニングの有効性と注意点、そして具体的な実施例をご紹介します。

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大手電機メーカーで実際に行われたコンプライアンス施策をもとに教育手法にフォーカスし、131ページにわたり解説しています。

[1] GEなど成功した世界企業が実践するアクションラーニングの真髄 (INSIGHT NOW)
https://www.insightnow.jp/article/2760

1. アクションラーニングの活用

アクションラーニングは、次のように定義されています。

アクションラーニングは、グループの現実の問題に対処し、その解決策を立案・実施していく過程で生じる、実際の行動とそのリフレクション(振り返り)を通じて、個人、そしてグループ・組織の学習する力を養成するチーム学習法です。

出典)
アクションラーニングとは アクションラーニングとは (NPO法人 日本アクションラーニング協会)http://www.jial.or.jp/al/about.html

冒頭でも説明したように、現実に直面している問題を例に、その解決策をグループで考えていく具体的な学習方法であると、ここでも定義されています。

1-1. アクションラーニングの有効性

アクションラーニングは、eラーニングだけでは解決できない「受講生同士の交流が減る」「その場で質疑応答できない」などといった課題について、eラーニングで前提となる知識を獲得した後にグループ学習を行うブレンディッド・ラーニングの一環です。そのため、同様にeラーニングと研修とを組み合わせることで、質疑応答などで理解を深めていく効果があります。

さらに、「受講者のモチベーション維持に工夫が必要」という課題について、自分で学びグループで確認するという「反転教育」以上に、モチベーションを刺激する効果が期待できます。

その理由として、アクションラーニングでは、受講者が所属する会社や部門が実際に抱えている問題をテーマにし、そのテーマに対して研修で議論して具体的な解決策を検討すること、さらに実践して検証するところまで行い、よりリアルに現場の対応を学べるという点で、受講者のモチベーションが非常に刺激されやすい教育方法であるということが挙げられます。

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1-2. 研修における注意事項

ただし、アクションラーニングにも、重要な注意点があります。
それは、現実問題を扱うがために、実際発生したトラブルの原因と責任追及をしてしまう、という点です。

つまり、自社事例は身近に感じるとはいえ、学習者の職場や職種と異なれば、どうしても他人事に感じてしまう「対岸の火事の意識」が生まれるかもしれません。一方、自社事例と使うと、リアルケースのフィードバックができるメリットはありますが、トラブルが起こった後で、当時の担当者や責任者の意思決定のミスを指摘するのは容易です。そのため、学習者が 「○○部門の責任者のミスで起こった問題」というような、責任追及型の意識を持ちやすいというリスクが生まれがちなのです。
これについては、下記の記事でも触れました。

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こうした事態を避けるためには、アクションラーニングの研修プログラムの中で、

①  事例から何を学ぶべきかを明確にする
②  研修の参加者が「自分にも起こり得ること」として考えられるよう工夫する

という2点を押さえておくことが必要です。

2. アクションラーニングの研修事例

それでは、実際に筆者がコンプライアンス担当として実施したアクションラーニングの事例をご紹介しましょう。

2-1. 研修プログラムの概要

この事例は、若手リーダー候補の契約担当者を対象に、「契約」と「情報セキュリティー」の基本となる法律の知識をeラーニングで学習した後、模擬交渉によるシミュレーションを行ったものです。最後に、自部門の課題を抽出し、それの対策方法を検討した後、その結果を発表するプログラムを設計しました。

このときに取り上げたテーマは、以前に下記の記事でも紹介しましたが、「情報管理の甘さから起きた顧客とのトラブル」という、現実に発生した課題についてです。このトラブルを素材に、自部門でも同様の共同研究・開発における技術流出の問題が起こり得ないか否かを検討するプログラムとしました。

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2-2. 3段階のプログラム

この事例では、次の4つのステップでアクションラーニングを実施しました。

Step1:eラーニングによる個人学習後、模擬交渉

最初に、eラーニングによる個人学習を行います。シミュレーションとディスカッションの効果を上げるため、前提知識として必要な法律を学習しておくのです。この点は、ブレンディッド・ラーニングや反転教育でご紹介した方法を取り入れています。

そのうえで、集合研修により、模擬交渉を行います。取り上げるケースは、秘密保持契約のトラブルから作成しました。そのうえで、次のStep2~4のような3段階のプログラムを行いました。

模擬交渉は、以下の手順で行います。
① 事前準備
② 模擬交渉(ロール・シミュレーション)
③ 感想戦
④ フィードバック

Step2:模擬交渉後、交渉結果を書面化

模擬交渉の後、交渉議事録や結果報告書を作成し、その内容を交渉相手や同じ役割の参加者と議論します。このときに作成した報告書は、その後、本ケースの本質的な課題を議論する際の素材になります。

Step3:交渉結果から課題を抽出

ここから、自部門の課題に入ります。模擬交渉ケースの元になった事例を講義したあと、本質的な課題が何であったかをグループで議論してもらいます。

課題を抽出する方法は、
① 事例の共有
② 論点のレビュー
③ 教訓の抽出
の順番で行う「教訓の抽出」方法がいいでしょう。

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Step4:対策を自部門で実践し、実践結果を発表・議論

このプロセスを経て検討した対策方法を、実際に自部門に当てはめて検証してみます。そして、最後に、実践した結果を発表し、どのような効果があったか、何が本質的な課題かについてを議論します。

これは実際にあったケースですが、このプロセスを通じて検証したところ、顧客との秘密保持契約と情報セキュリティー管理との運用が不明確であるために情報が混在するリスクが見つかり、すぐさま改善したことがありました。また、秘密保持契約を巡るトラブルが契約終結後に発生することが多いことに気づき、契約終結時の終結ルールと管理フォームを新たに作るなどの対策が行われた事例もあります。

このように、アクションラーニングは、具体的な問題解決に対してとても学習効果の高い方法です。また、解決策を立案する過程の議論のほうに価値があるため、その前提知識としてeラーニングを組み合せることで、より議論が深まり、高い学習効果を上げることができます。

3. まとめ

アクションラーニングは、現実の課題をケースとしてその解決に取り組むグループワークの一種であり、多くの企業の人材育成に活用されています。

アクションラーニングは、現実の課題を取り上げるため、より実践的で「受講者のモチベーション維持に工夫が必要」という課題について、反転教育以上にモチベーションを刺激する効果が期待できます。

一方、自社事例を活用するとそのトラブルの犯人探しに、また他社例を使うと「対岸の火事の意識」が生まれるので、そのバランスの取り方やテーマの取り上げ方には注意が必要です。こうした問題を避けるためには、アクションラーニングの研修プログラムの中で、①事例から何を学ぶべきことを明確にする、②研修の参加者が「自分に起こり得ること」として考えられるよう工夫する、ことが重要です。

アクションラーニングは、コンプライアンス研修にも有効です。若手リーダー候補を対象として、次のような段階を踏んだアクションラーニングの事例をご紹介しました。

Step1:eラーニングによる個人学習後、模擬交渉
Step2:模擬交渉後、交渉結果を書面化
Step3:交渉結果から課題を抽出
Step4:対策を自部門で実践し、実践結果を発表・議論

今回は、eラーニングの活用例として紹介したアクションラーニングの特徴を理解したうえで、注意点に気を付けて、コンプライアンス教育の企画に生かしてください。

  • 「質問会議 なぜ質問だけの会議で生産性が上がるの?」 清宮普美著 PHP研究所
  • 「シリーズ大学の教授法3 アクティブラーニング」 中井俊樹編著 多摩川大学出版部
  • GEなど成功した世界企業が実践するアクションラーニングの真髄 (INSIGHT NOW)https://www.insightnow.jp/article/2760
  • アクションラーニングとは アクションラーニングとは (NPO法人日本アクションラーニング協会)http://www.jial.or.jp/al/about.html

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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