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ブレンディッド・ラーニングとは 研修とeラーニングのうまい組合せ方

2022.1.5 更新

ブレンディッド・ラーニング(Blended Learning)とは、知識習得やテストなどを「eラーニング」で行い、ディスカッションや実地訓練などは「集合研修」で行うという、2種類の学習方法を併用する研修スタイルのことです。

eラーニングを用いた教育施策を設計する際にぜひ知っておいていただきたい手法が、この「ブレンディッド・ラーニング」です。企業研修やビジネススクールの講座にもよく用いられており、米国教育界でベストセラーとなった「Blended」の著者マイケル・B・ホーンは、「教育界の破壊的イノベーション」であると評価しています。

ブレンディッド・ラーニングは、eラーニングのみで学習する場合のデメリット「受講者同士の交流が減る」、「その場で質疑応答ができない」という点を改善できる有効な教育方法です。ただし、効果的な運用をするためには注意すべき事項もあります。

本稿では、eラーニングの活用方法として「ブレンディッド・ラーニング」の有効性と運用上の注意点について解説します。そして、企業のコンプライアンス教育で実際に活用した例も合わせてご紹介します。

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1. ブレンディッド・ラーニングの活用

単独で学習できる点がeラーニング登場以来のメリットであり、かつデメリットだと言われています。つまり、集合研修で教育していた講義内容をeラーニングに置き換えるだけでは、学習内容の伝達はうまくできても、「受講者同士の交流が減る」、「その場で質疑応答ができない」という課題にも直面しうるのです。この点を補えるのが、集合研修とeラーニングを組み合わせた学習形態「ブレンディッド・ラーニング」というわけです。

ここでは、ブレンディッド・ラーニングの有効性と注意点について解説していきます。

1-1. ブレンディッド・ラーニングの有効性とは

以下に紹介するような、eラーニング単体でのデメリットは、ブレンディッド・ラーニングによって解決することができます。

・「受講者同士の交流が減る」に対して
ブレンディッド・ラーニングは、eラーニングの後に集合研修が組み合わせられているので、受講者同士が直接顔を合わせて交流することができます。

・「その場で質疑応答ができない」に対して
この問題は、eラーニングの教材の作りや質問窓口、社内SNSなどの運用の工夫でも解決できますが、ブレンディッド・ラーニングの集合研修は、その場に講師がいるので直接質問することができます。

また講師は、受講者のラーニングの内容に対する質問を聞いたり、eラーニングの内容や確認テストの結果をチェックしたりしておくことで、その受講者が、どの分野の学習理解度が低いか、どんな課題があるかを事前に知ることができます。ブレンディッド・ラーニングは、講師の立場からも、集合研修のみより効果的な研修を実施できます。

・「すべての教育をeラーニング化できるわけではない」に対して
eラーニングでは不可能なディスカッションやロールプレイなど、集合研修でしか実現できないタイプの学習方法も取り入れることができます。

例えば、教育学者のエドガー・デール教授が提唱する「アクティブ・ラーニング」という学習方法がありますが、これを実践するにはeラーニングよりも集合研修が適しています。従来の受動的な学習方法ではなく、ディスカッションやスピーチなどの能動的な学習によって長期記憶に残りやすくなるというもので、コンプライアンス教育でも大変有効です。

コンプライアンス研修 イメージしやすく学習効果を上げる事例活用法

中井俊樹教授(愛媛大学)が著書 の中で紹介しているように、アクティブ・ラーニングには多様な技法があります。

1 アクティブラーニングの技法
 1.1 ディスカッションを導く技法 
シンク・ペア・シェア、ソクラテス式問答法、バズ学習、ディベート等
 1.2 書かせて思考を促す技法
   ミニッツペーパー、大福帳、質問書方式、ダイヤログジャーナル等
 1.3 学生を相互に学ばせる技法
   ピア・インストラクション、ペア・リーディング、ラーニングセル等
 1.4 問題に取り組ませる技法
   クイズ形式授業、復習テスト、再チャレンジ付小テスト、間違い探し等
 1.5 経験から学ばせる技法
   ロールプレイ、サービスラーニング
 1.6 事例から学ばせる技法
   映像活用学習、ケースメソッド、PBL(Problem Based Learning)等

原典)「シリーズ大学の教授法3 アクティブラーニング」、中井俊樹編著、多摩川大学出版部、P162-173

先に述べたように、これらの多くはeラーニングよりも集合研修に適した教育手法です。しかし、eラーニングで前提知識や基礎知識を学習した後に、ディスカッションやロールプレイなどの集合研修を行うと、より理解が深まり、相乗効果が期待できるのです。

1-2. ブレンディッド・ラーニングの注意事項

一方、効果的に研修を運営するためには、次の点に注意が必要です。

・eラーニングのコンテンツと集合研修テーマの連動性
eラーニングの内容とその後実施する集合研修のテーマには、連動性を持たせる必要があります。たとえば、集合研修において、「情報セキュリティー管理の認識と現在の課題」というテーマで議論するのであれば、当然eラーニングでは、議論の前提知識となる情報セキュリティーの基礎の学習となります。

・期限管理
eラーニングを集合研修の前提知識や基礎知識の習得過程とするためには、集合研修の参加者は、必ず研修前にeラーニングを修了しておかなければなりません。集合研修でグループ演習を行う場合、終了していない参加者が混在すると前提知識や基礎知識の理解の違いから、議論のズレが生じる可能性があります。そのため、参加者のeラーニングについては、期限管理をきちんとしておく必要があります。

・グループ編成
eラーニングのスコアをもとにグループ編成を変えることにより、効果的な学習を目指す方法があります。この方法は、ブレンディッド・ラーニングの一種として話題になっている「反転教育」でよく用いられており、詳細は、下記の記事でご紹介します。

反転教育で研修効果と学習意欲アップ eラーニング活用事例をご紹介

このように、ブレンディッド・ラーニングは、eラーニングのデメリットを解決し、学習効果を上げるために役に立つ教育方法です。この学習方法は、コンプライアンス教育においても同様です。

冒頭でご紹介したマイケル・B・ホーンは、ブレンディッド・ラーニングを「教育界の破壊的イノベーション」であるとしたうえで、その導入について、次のような注意を促しています。

ブレンディッド・ラーニングはいまだ進化の途上にあり、現時点ではまだ簡単に実行できるまでには至っていません。今すぐ慌てる必要も、すべて一度による必要のないことはないよりです。まず、計画に十分な時間をとり、慎重に実行してください。

ブレンディッド・ラーニングは有効な教育方法ですが、その効果を得るにはきちんとした教育施策の設計が必要だ、ということです。

2. ブレンディッド・ラーニングの研修事例

それでは、筆者がコンプライアンス担当として実際に実施したブレンディッド・ラーニングの事例をご紹介しましょう。

2-1. プログラムの概要

この事例は、新入社員から中堅社員を対象に、コンプライアンスの基本となる法律や知財の基礎をeラーニングで学習した後、オンラインでグループ討議(ネット議論)し、最後に集合研修においてグループ演習としてシミュレーションを行うプログラムです。

最後のグループ演習では、ロール・シミュレーション(模擬交渉)を実施しました。
模擬交渉は、次の順番で行います。

①事前準備
②模擬交渉(ロール・シミュレーション)
③感想戦
④フィードバック

この順番は、アクティブ・ラーニングの技法のひとつです。

2-2. eラーニングによる個人学習

最初のeラーニングでは、模擬交渉のケースの前提知識として必要な法律分野を学習するようにしました。
例えば、最後の模擬交渉で秘密保持契約のケースを用いる場合は、eラーニングでは、「契約と情報セキュリティー」の基礎を学習します。一方、意匠権や商標権の侵害を巡る模擬交渉を行う場合は、eラーニングでは、「意匠法」や「商標法」の基礎を学習する、といった具合です。

2-3. オンラインクラスによるネット議論

ネット議論は、議論しやすい4~5名のグループで行います。議論のテーマとしては、eラーニング学習の中で疑問に感じたことや感想などから、模擬交渉のケースを事前に配布して、同じ役割のグループで模擬交渉の準備の議論などを行います。

2-4. 集合研修によるロール・シミュレーション

最後の集合研修では、eラーニングで学習した知識を用いて、ネット議論で整理した論点と模擬交渉の準備に基づき、交渉相手を決めた模擬交渉を行います。

この事例では集合研修で模擬交渉を行っていますが、テーマによっては、オンラインクラスで議論した内容を各グループが発表する演習に変更することもできます。

2-5. 効果的な運用のポイント

1-2でご紹介したように、効果的な運用のためには、eラーニングの期限管理には注意が必要です。グループで行うネット議論が深まるか否かは、個人学習の進捗状況の影響を受けます。そのため、学習が行われるタイミングとネット議論のスケジュールをよく考えて決める必要があります。

また、ネット議論は参加者のみが行いますが、定期的に講師が議論に介在する方がベターです。毎回でなくても、例えば、週に1回ぐらいの頻度で日程を決めて、議論した内容について講師に質問し、講師からのコメントを受けてオンラインでやり取りするという仕組みを取り入れると、eラーニングにもアクティブ感が加わります。また講師は、各グループのネット議論を管理者画面で見ることができるので、その内容に対して時々必要なアドバイスやガイダンスをする方法もあります。

この事例では、受講者20名(5名×4グループ)で、eラーニングの期間を2週間に設定し、後半の1週間の段階で、各グループの議論に講師が介在する方法を取りました。

最後の集合研修では、講師はeラーニングとネット議論の内容を受けたコメントやフィードバックをし、参加者も、個人学習からオンラインのグループ学習、集合研修のグループ学習と段階的に学ぶことになるため、eラーニングと集合研修との間を埋めて、地続きで学習できる効果があります。

なお、シミュレーション型の演習としては、ここでご紹介した模擬交渉の他にも、法分野ごとにeラーニングで基礎を学習した後、次のような方法を取ると、より学習効果が得られます。

・独占禁止法 
「タテとヨコのチェックポイントについて、○×△式で考える演習」
※自社を基準として、商品やサービスが消費者・ユーザーに届くまで(タテの関係)と同業他社との関係(ヨコの関係)で整理し、理解する学習方法。

・下請法
「業務フローに合わせたチェックリスト作成演習」
※チェックリストの作成と議論により、具体的なチェックポイントを考えて理解する学習方法。

・PL法
「PL法のQ&A作成演習」
※法律を基礎編、製品編、販売編に分け、Q(Question)を考えながら、自分たちでA(Answer)も議論して考える学習方法。

・外為法
「業務フローに合わせた事例問題の演習」
※業務フローに基づいて、具体的なビジネスシーンから問題を作成し、選択肢を選ぶ学習方法。

・著作権法
「著作権法のQ&A作成演習」
※著作物の引用などの利用シーンに合わせて、Q(Question)&A(Answer)を議論しながら考え、具体的な利用シーンごとに、Do’s & Don’ts(何をすべきで何をすべきでないか)を理解する研修方法。

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3. まとめ

ブレンディッド・ラーニングは、集合研修とeラーニングを併用する研修スタイルであり、企業研修やビジネススクールの講座にも用いられています。

eラーニングのデメリットである「受講者同士の交流が減る」、「その場で質疑応答ができない」というデメリットを、集合研修を組み込むことによって解決できる方法として意義があります。また、講師にとっても、事前に学習課題がわかっているため、効果的な集合研修運営が可能です。

一方、効果的な運用のためには、「eラーニングのコンテンツと集合研修テーマとの連動性」、「期限管理」が重要です。そのために、集合研修テーマの前提知識のeラーニングは、参加者が期限通りに終了していなければなりません。この期限の徹底は大切です。

ブレンディッド・ラーニングは、コンプライアンス教育においても、効果のある方法です。一例として、法律や知財の前提知識をeラーニングで学習し、グループ単位でオンラインのネット議論を行い、最後に、集合研修でロール・シミュレーションを行った事例を取り上げました。

今回は、eラーニングの活用例として、ブレンディッド・ラーニングをご紹介しました。その特徴を理解したうえで、注意点に気を付けて、コンプライアンス教育の企画に生かしてください。

  • 「シリーズ大学の教授法3 アクティブラーニング」、中井俊樹編著、多摩川大学出版部
  • 「ブレンディッド・ラーニングの衝撃 「個別カリキュラム×生徒主導×達成度基準」を実現したアメリカの教育革命」、マイケル・B・ホーン,ヘザー・ステイカー著、教育開発研究所

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある 。

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