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生成AIで著作権を侵害する可能性はある?日本と海外の違い、利用ガイドライン制定について解説

2024.2.6 更新

2022年11月、米国のベンチャー企業Open AI社が開発した生成AI「ChatGPT 3.5」は、公開後、わずか2ヶ月でユーザー数が1億人を突破しました。この事例をきっかけに、日本でも生成AIで何ができるのか、企業の業務に使えるのかが大きな話題になりました。

その後、一部の政府機関や企業は、生成AIを業務に活用していることを公表しました。農林水産省、文部科学省、デジタル庁、東京都、ベネッセホールディングス、三井住友銀行フィナンシャルグループ、パナソニックグループなどの官公庁、大手企業も業務活用を公表しています。

参考:
【2023年最新】ChatGPTを導入した日本の企業・組織事例まとめ(Tech Trends)
https://techtrends.jp/trends/utilize-chat-gpt/

しかし、帝国データバンクの調査によると業務で実際に生成AIを活用している企業は9.1%に過ぎません。ただし、今後、業務で活用を検討している企業は52.0%です。
一方、活用を検討しているがイメージがわかないと回答した企業が37.8%にも上っています。イメージがわかない企業からは、以下のようなコメントが紹介されています。

”「業務とのつながりがイメージでいない・(機械・器具卸売)」、「使用したいが、使い方がよく分からない。詳しい社員もいないのでしばらく静観するしかない」(輸送用機械・器具製造)との声があった。業務で生成AIの活用を前向きに検討していきたいと考える一方で、現時点では自社の業務での具体的な使い方やイメージが湧きにくいという実態がみられた。”
引用元:特別企画 生成AIの活用に関する企業アンケート(帝国データバンク)https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230608.pdf

また、業務での活用を検討していない企業では、「大企業」で11.4%、「中小企業」で4.7%、「小規模企業」では4.3%が「会社から業務での利用を認められていない」と回答しています。

このように、生成AIの業務での活用については、利用価値はある一方、法令違反や権利侵害のリスクがあり、検討段階の企業が多い状況です。特に、他人の著作権を侵害するリスクに関する懸念が指摘されています。

今後、活用を検討している企業のために、弁護士や関連の協会によるAI利用ガイドラインのサンプルが示されるなど、AIの導入リスク低減へのニーズの高まりが見て取れます。

今回は、生成AIと著作権についてどのような問題が指摘されているか、日米欧の現状を比較し、今後、企業が生成AIを業務に有効活用するには何に気をつけるべきかについて、事例を交えてご紹介します。

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1. AIと著作権の関係

1-1. 著作権とは?

世界で最初に著作権法が制定されたのは、1545年、ベネチア共和国でした。
グーデンベルグの印刷機発明により、書籍が大量印刷できるようになりました。一方、聖書などの書籍の偽物が出回るようになり、著作者の権利を保護する必要があり著作権法が制定されましたが、当時はまだ限定的な法律でした。

その後1710年、英国で制定された著作権法が、現在の著作権法の原典になっています。アン王女法と呼ばれた英国の著作権法は、著作者に28年間の独占権が与えられる一方、保護期間が経過した後は、誰でも自由に使用できるパブリックドメインとなる制度でした。当時英国では、ロビンソンクルーソーやガリバー旅行記などの優れた文学作品が生み出されており、著作権法の制定は、これらの作品の著作権を守るために制定されたのです。

書籍の著作物は国境を越えて広がるため、国が異なっても同等の権利が保護される必要があります。
そのため、1886年、スイスのベルヌに10カ国が集まり、「文学的および技術的著作物の保護に関するベルヌ条約(ベルヌ条約)」を締結しました。この条約により、著作物は国境を越えても原則として同等の権利が保護されるようになりました。現在、ベルヌ条約には、170カ国以上が加盟しています。

このような背景から、著作権法で保護される著作権は、「思想または感情の表現であること」、「表現に創作性があること」、「表現が文芸・学術・美術または音楽の範囲に属するものであること」を満たす必要があります。
その後、1980年に米国が世界で初めてプログラムのソフトウェアを著作権法の保護対象にしたことをきっかけに、著作物の対象が拡大しました。近年では、編集著作物の一種として、データベースも保護されています。

著作権の歴史 聖書印刷からビッグデータ活用に至る軌跡を丁寧に解説

1-2. AI創作物に著作権はある?

著作権法は、新聞・小説・雑誌などの記事、映画・写真などの美術品TV・映画などの映像、レコード・CDの音楽とコンピューターのプログラム、データベースの著作権を保護しています。
しかし、いずれも「人間が創作していること」が前提です。それでは、AIが創作した場合、著作権はどうなるのでしょうか。

AI創作物と著作権の関係については、次の図がわかり易いと思います。

引用元:
「次世代知財システム検討委員会報告書」、知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 次世代知財システム検討委員会、2016年、P23、(内閣府)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2016/jisedai_tizai/hokokusho.pdf

AIが自動的に生成したAI創作物には、著作権は発生しないとされています。ただし、AIを道具として人が利用して生成した創作物の場合は、人による創作物と同じく、著作権が発生します。
そのためには、人がどのように関与したかという「創作性」がポイントになります。この判断は、ベルヌ条約の加盟国が同じ基準になると思われます。

それでは、AI創作物に創作性が認められるのは、どのような行為の場合なのでしょうか。
文化庁の審議会では、人による以下のような行為があれば、AI創作物にも創作性が認められる可能性があるとされています。
・指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
・生成の試行回数
・複数の生成物からの選択
・生成後の加筆・修正
引用元:「資料3 AIと著作権に関する論点整理について」、文化審議会著作権分科会制度小委員会(第1回)、P5、2023年、(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_01/pdf/93918801_03.pdf

従って、人による短い単語での指示や質問によりAIが自動的に生成した創作物の場合には、創作性があると判断されず、著作権は発生しないことになります。ただし、創作物に人がどのように介在したかを外見上で見分けることは難しく、実際の判断はケースバイケースになります。

2. 日本におけるAI開発から利用までの著作権

AIと著作権の問題は、AIの開発・学習段階と生成・利用段階を分けて考える必要があります。それぞれの段階について、説明します。

2-1. AI開発・学習段階

AI開発・学習段階について、2019年に施行された著作権法第30条の4には、AI開発のための情報解析などのように、著作物の「享受」を目的としない利用行為については、必要と認められる限度において著作者の許可なく利用できることが明記されています。

「享受」とは、書籍を読んだり、音楽・映画を鑑賞したり、プログラムを実行したりする行為です。従って、AI開発・学習段階での著作物の利用は、享受ではないとみなされています。つまり、営利目的か非営利目的か、研究目的かなどに関わらず、著作者の経済的利益を害するものではなく、著作権侵害にはならないとされています。

そのため、AI開発・学習段階では、日本の著作物は比較的自由に利用することができます。ただし、著作者の利益を不当に害する場合は例外としており、その判断は、個別の案件として、最終的に裁判で判断されるとしています。

参考:
「AIと著作権セミナー」、令和5年度著作権セミナー、文化庁著作権課、(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

2-2. AI生成・利用段階

AI生成・利用段階では、AI創作物は、通常の著作物と同じ基準で扱われます。つまり、著作者の許可なく使用できる場合以外は、著作者の許可が必要です。
また、AI創作物が著作権侵害か否かは、通常の著作物と同様に、類似性と依拠性により判断されます。

著作者の許可なく使用できる場合とは、私的使用のための複製、引用などです。これは、「権利制限規定」と呼ばれています。
例えば適法な引用とは、公表された著作物を対象として、批判・研究などの正当な目的である、引用の必然性がある、引用部分との主従関係が明確に区分されている、出所が明示されているなどの要件を満たす場合を指します。

参考:
著作権が自由に使える場合(文化庁)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

著作権侵害の要件である「類似性」とは、AI創作物が、他人の著作物と似ていることを指します。また、「依拠性」とは、AI創作物が、他人の著作物に基づき、創作されることです。
AI創作物は、通常の著作物と同様に、権利制限規定を満たす場合に類似性と依拠性が認められたとしても、著作権侵害にはなりません。しかし、それ以外の場合、著作者の許可が必要です。

参考:
「AIと著作権セミナー」、令和5年度著作権セミナー、文化庁著作権課、P46、(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf

3. 海外におけるAIの著作権

3-1. 米国の場合

米国には、日本の著作権法第30条の4に該当するような、AI開発・学習段階に関する著作権法の特別規定はありません。そのため、AIと著作権の問題は、通常の著作権法に基づき判断されることになります。

米国の著作権法には、「フェアユース規定」と呼ばれる権利制限規定があります。フェアユース規定の要件を満たすか否かは、次のような4つの要素に基づき、個別に判断されます。
① 使用目的と性格
② 著作物の性質
③ 使用される部分の量・重要性
④ 原著作物に対する悪影響

従って、AIの開発・学習段階であるか、生成・利用段階であるかに関わらず、権限制限規定以外の場合は著作者の許可が必要になります。

著作権は、創作と同時に権利が発生するため、特許権等と異なり、権利を発生させるために登録を行う必要はありません。ただし、著作権を保護するために、登録する制度があります。

この著作権登録制度について、管轄する政府機関である著作権局は、AIで生成した画像の著作権登録に関するガイドラインを公表しました。その中でAIが自動生成した創作物について、著作権は認められないとしています。しかし、人の想像力が反映された部分には著作権の保護が及ぶとし、著作権を登録するためには、「AIが自動生成した部分」と「人が創作した部分」を区分して明示するように求めています。

参考:
「AIが自動生成=著作権なし」「人間の創作=著作権あり」米著作権局、AI生成コンテンツの登録ガイドライン公表(IT Media)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/22/news172.html

米国では、ChatGPTが複数の著作者から訴えられています。
例えば、開発・学習段階における著作権やプライバシー侵害についてインターネットユーザーから、無断で書籍の著作権を利用したとして作家グループから訴訟を起こされるなどの事例が続いています。

参考:
生成系 AI に対する著作権侵害等の訴訟の動き(JETRO)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2023/20230714.pdf

その中で、特に、注目されているのは、NYタイムズの訴訟です。
NYタイムズは利用規約を変更し、AI開発に無断で記事データを利用することを禁止していました。その上で、Open AI社に対して、記事データを無断で利用したとして、利用料の支払いを求める訴訟を起こしています。
この裁判により、NYタイムズに利用料の支払いが認められた場合、ChatGPTに限らず、生成AIの開発・学習段階におけるコストや生成・利用段階のサービス条件に大きな影響があると思われます。

参考:
ニューヨーク・タイムズの訴訟でChatGPTが立往生の可能性(現代ビジネス)
https://gendai.media/articles/-/116981

3-2. EUの場合

EUには、AI開発・学習段階について、DSM(Digital Single Market)著作権指令による規定があります。
EU加盟国には各国に個別の著作権法がありますが、DSM著作権指令に基づき、各国の著作権法を制定または改正する義務を負います。

DSM著作権指令には、以下の条件が規定されています。

” DSM著作権指令3条は、以下の条件で著作物のAI学習利用を許容しています。
・主体:研究機関、文化遺産施設(cultural heritage institutions)
・目的:科学研究
・権利者による学習利用からのオプトアウト:認められていない

DSM著作権指令4条は、以下の条件で著作物のAI学習利用を許容しています。
・主体:限定なし
・目的:限定なし(営利目的も含まれる)
・権利者による学習利用からのオプトアウト:認められている”
引用元:【2023年最新】弁護士が解説!著作物のAI学習利用に関する海外制度と最新動向
(ZeLo LAW SQUARE)https://zelojapan.com/lawsquare/35949

企業がAI開発・学習を行なう場合、研究目的では他人の著作物を利用可能です。しかし、研究目的以外の場合、日本の著作権法第30条の4と比較すると著作者が「オプトアウト権」により、利用を拒否できるという点が異なっています。

また、EUでは、世界初の包括的なAI規制の準備が進んでおり、2024年から施行される予定となっています。個人情報保護に対するGDPR(EU一般データ保護規則)と似た広範囲で厳しい制裁金を含む規則になるのではないかと言われています。

以上のように、日米欧を比較するとAI開発・学習段階においては、日本が著作物を利用し易い環境にあると言えます。Open AI社が積極的な日本進出を公言している背景には、日本語の学習データの蓄積が英語と比較して少ないことと、このような著作物の利用環境にあると言われています。

今後の米国の裁判とEUの規制の動向は、AI開発・学習段階から生成・利用段階における制約やコストに大きく影響を与えると思われます。また、2023年10月30日、主要7カ国(G7)は、生成AIの開発者に対して、電子透かし、証明システムの導入、市場投入前に専門家による擬似的なテストでリスクを分析する(レッドチーミング)などのリスクへの対応策を示した「行動規範」を策定することで合意しました。さらに、2023年内にAIのサービス提供者・利用者などの全事業者に向けた指針を作ることを公表しています。

これらは、今後の生成AIの開発から利用に大きく影響する動きであり、これらの動向に注目しておく必要があります。

参考:
G7、AI行動規範で合意 企業にリスク減要請 (日本経済新聞社 2023/10/31)
https://www.nikkei.com/news/print-article/?R_FLG=0&bf=0&ng=DGKKZO75728310R31C23A0EA2000

<コラム:ハリウッドストライキとAI>

このストライキにより、ウォルト・ディズニー、NETFLIXなどを代表とする「全米映画テレビ製作者協会(AMPTP:映画・TV協会)」は、映画やドラマの製作ができなくなり、大きな損失を被っています。両方の労組の要求のうち、著作権に関連するのは、次のような内容です。
① 動画配信の再生報酬の改善
動画配信が始まるまでは、映画が公開された後のテレビ放映やDVDなどの二次利用には、放送やディスク化に応じて、脚本家や俳優に再生報酬が支払われていました。しかし、動画配信は、再生回数に応じた支払いではないため、再生報酬の支払い条件の改善を要求しています。
② AIの利用制限
脚本家はAIに自分たちの脚本を学習させることについて、俳優はAIスキャン(AIで人物の映像を取得し、その後、そのデータを自由に活用すること)について、それぞれ反対はしないが基準を決めて欲しいという旨の要求をしています。

脚本家は、映画やドラマなどの人物のセリフや行動などに基づくシナリオを創作する著作者です。
脚本家が創作した脚本は著作物であり、第三者が利用する場合、著作者の許可が必要です。
俳優は、映画の出演や音楽の演奏などを行なう実演者を行なう実演家であり、著作隣接権者です。著作隣接権には、放送権・有線放送権、譲渡権、貸与権などがあり、実演家の演奏や録音を利用する場合、演奏家の許可が必要です。
いずれも、それぞれの権利に基づき、報酬などの条件改善を求めています。

参考:
著作者にはどんな権利がある?(CRIC)
https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html

著作隣接権(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosaku_rinsetsuken.html

2023年9月、脚本家労組は、単独で映画・TV協会と2026年5月1日を期限として暫定的に和解しました。著作権に関する主な和解内容は以下のようになっています。
① 脚本家労組と映画・TV協会は、AI利用計画について、最低、年2回協議する。
② 映画・TV協会は、脚本家にAI利用を強制しないが、作品がAIの訓練に使われた場合、脚本家は提訴できる。
③ 映画・TV協会は、動画配信の視聴時間に関するデータを開示し、米国外での視聴数などを反映して、脚本家への報酬を増額する。

その後、2023年11月、俳優労組も、映画・TV協会と3年間を期限として暫定的に和解してストライキを中止しました。著作権に関する主な和解内容は以下のようになっています。
① 映画・TV協会は、AIスキャンを行なう場合、俳優本人の承諾を取ると共に、報酬を支払う。
② 映画・TV協会は、動画配信について、3ヶ月で加入者の20%に達した番組を対象として俳優に
ボーナスを支払う。

これらの暫定合意は、今後の映画・TV制作コストや動画配信の条件に影響がでると思われます。

4. AI利用ガイドライン作成の課題

4-1. AI利用ガイドライン制定に有益な参考情報

ここまで、主に生成AIと著作権について、法令違反や権利侵害のリスクを中心に説明してきました。一方、生成AIを利用しないことにより、企業が競争上で不利になる、または、他社と差別化できないというリスクが生じる可能性も指摘されています。

参考:
生成AIを「利用しない」リスクとは 村田製作所が全社導入した理由 (IT Media)
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2309/20/news034.html

リスクを軽減し、価値を生み出すには、企業のAI利用について、適切な社内ガイドラインを作成する必要があります。そこで、社内ガイドラインを検討、または作成するために参考になる資料をご紹介します。

① 日本ディープラーニング協会(JDLA)
JDLAは、AI研究で著名な松尾 豊、東京大学大学院教授が代表理事を務める一般社団法人です。
JDLA では、2023年5月に「生成AIの利用ガイドライン」を公表しています。このガイドラインは、企業が生成AI利用を考える場合のひな型となるものです。

本ガイドラインの目的の中で、生成AI利用の功罪について、以下のような注意事項が明記されています。

”生成AIは、業務効率の改善や新しいアイデア出しなどに役立つ反面、入力するデータの内容や生成物の利用方法によっては、法令に違反したり他者の権利をしたりする可能性があります。”
引用元:生成AIの利用ガイドライン(日本ディープラーニング協会)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000148.000028865.html

その上で著作権について、「第三者の権利を侵害する可能性に対して特定の著作物のみを学習させた特化型AIを利用しない」「プロンプトに既存著作物、作家名、作品の名称を入れない」など、具体的な注意事項の例が示されています。

② 弁護士による書籍
生成AIの法的なリスクを解説するとともに、ガイドラインのサンプルを明示している弁護士による書籍を2冊ご紹介します。

書名:ChatGPTの法律
著者:弁護士 田中浩之他 11名
出版:中央経済社
URL: https://www.biz-book.jp/isbn/978-4-502-47021-9

本書は、12名の弁護士が、ChatGPTを利用するために必要となる法律知識を解説しています。ChatGPT利用について、著作権以外にも、個人情報保護法など、留意すべき法分野と注意事項が明示されています。さらに、ChatGPTをビジネスで利用する場合の留意点を示しており、その中で、社内ガイドラインのサンプルとして、ガイドラインの条項例と解説が紹介されています。

書名:生成AIの法的リスクと対策
著者:弁護士 福岡真之介、松下外
出版:日経BP
URL :https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/23/09/12/01005/

本書は、2名の弁護士が、生成AIを利用するために必要となる法律知識を解説しています。著作権以外の法的リスクについても、留意すべき法分野と注意事項が明示されています。
社内ガイドラインの具体例として、日本経済新聞社のガイドラインの要約が紹介されています。さらに、生成AIを利用する場合に必ず確認する必要がある利用規約について、チェックポイントが解説されており、社内ガイドライン制定には大いに参考になるでしょう。

4-2. ガイドライン作成の注意事項

AI利用ガイドラインに限らず、コンプライアンスの関するガイドライン作成には、次の点に注意する必要があります。

・業務に合わせたチェックリストの作成
AI利用ガイドラインの内容は、具体的な業務に対して、Do’s and Don‘ts (何をすべきで何をすべきでないか)を明示する方法が効果的です。
法的なリスクについては微妙なケースも多く、すべての業務に対して明確に判断するのは困難です。
さらに、AI利用と著作権などの法律問題については、まだ不確定な問題が残っています。そのため、AI利用ガイドラインでは、具体的な業務に対して、次のような3種類の基準を明示する方法が有効です。

〇:問題にならない行為
X :問題になる行為
△ :法務部門・弁護士に相談すべき行為

安全保障輸出管理における顧客審査の業務フローにおいて、〇X△の基準に基づくチェックフローの例は、以下の記事(2-2.業務フローに合わせたチェック)をご参照ください。

海外出張やクラウド利用も注意! 外為法違反を防ぐコンプライアンス教育

作成したAI利用ガイドラインの適切な利用を促すとともに、改善やアップグレードを行なうためには、次の取り組みが重要です。

・前提となる法律の基礎を教育
AI利用ガイドラインを適切に利用するためには、前提となる法律の基礎を理解する必要があります。ご紹介した弁護士の著書でも指摘されていますが、AI利用については、著作権以外にも、個人保護法、不正競争防止法などの複数の法律が関係します。これらの法分野の前提知識は、eラーニングによる学習が効果的です。適切なガイドラインの理解と利用には、基礎知識を教育する取り組みが欠かせません。

・ガイドラインを理解・改善・アップグレードするための研修
業務に合わせたガイドラインを理解するためには、具体的な業務に対して、議論する集合研修が効果的です。
例えば、研修参加者から、AI利用ガイドラインを読んで疑問に思う内容、実際にAIを利用している中で日頃から疑問に思う内容などをQ(Question)として提示してもらい、各項目について、グループで議論して論点を整理したした上で、講師(法務部員・弁護士等の専門家)がA(Answer)を提示する方法です。

この方法は、ガイドライン内容の理解が深まると共に、ガイドラインに何が不足しているかを把握できますので、ガイドラインの改善やアップグレードにも貢献できます。

著作権教育のQ&A作成演習の具体的な方法と著作権を活用したビジネスの例については、以下の記事を参照してください。

著作権教育が明暗を分ける!うかつなコピペによる大損害に注意

著作権とコンテンツビジネス レシピサイトに学ぶ「攻めの知財」

このように、事前にeラーニングで基礎知識を学び、その後、集合研修で実践的な議論を行なうブレンディッド・ラーニングについては、以下の記事を参考にしてください。

ブレンディッド・ラーニングとは 研修とeラーニングのうまい組合せ方

5. まとめ

生成AIと著作権について、発生、開発・学習、生成・利用段階のポイントと日米欧比較を説明しました。

AIが自動的に創作した創作物には、人による創作性に対する具体的な関与がない限り、著作権は発生しません。
AI開発・学習段階では、著作権法第30条の4に基づき、必要と認められる範囲において、他人の著作物が利用できます。ただし、AI生成・利用段階では、通常の著作物と同様に、著作権が自由に使える場合(権利制限規定)以外は、著作者の許可を取る必要があります。

AIが自動生成したAI創作物の著作権については、日米欧の違いはありません。ただし、米国の著作権法には、日本の著作権法第30条の4のような特別規定はなく、AI創作物は、開発・学習段階でも、生成・利用段階でも、通常の著作物と同じ条件で扱われます。既に、米国では、ChatGPTは、複数の権利者から訴訟されています。

また、EUでは、DMS著作権指令に基づき、研究目的では、AI開発・学習に著作物を利用できますが、それ以外の場合、権利者がオプトアウトにより拒否する権利が認められています。さらに、EUは、世界初の包括的なAI規制の準備が進んでおり、2024年から施行される予定です。以上から、日本は米国・EUと比較して、AI開発・学習段階では、著作物が利用し易い環境にあると言えます。

生成AIを社内利用することは、価値がある反面、一定のリスクがあります。そのため、有効利用するためには、適切な理解と社内ガイドラインが必要です。社内ガイドラインの作成について、有益な情報と作成のポイントを説明しました。

今回ご紹介したAIと著作権の情報から、生成AIを業務に活用する価値とリスクをご理解の上、自社の最適なコンプライアンスの実現に取り組んでください。

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