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コンプライアンス 研修で全社に浸透させる5つの方法 カギは「学習管理」

2023.10.17 更新

「コンプライアンス教育をしても、社内に染みついた考え方や行動がなかなか変わらない……」

コンプライアンス担当者の悩みの一つは、長年培われてきた企業体質に対し、コンプライアンスの考え方が浸透しにくいという点ではないでしょうか。

浸透するかどうかは、学習者がコンプライアンスを「自分事」として捉えて学び、具体的に行動するかどうかが大きく左右すると言えます。
これに対して効果的な教育手法として、これまで「ブレンディッド・ラーニング」「反転教育」「アクションラーニングを紹介してきました。主体的に学べる画期的な学習手法として世界的に注目されているものですが、いずれもeラーニングを活用することで、研修の効果・効率アップを実現しています。

これらの教育手法一つ一つをさらに効果的に実施できるようにする方法があります。ポイントは、いつ、どんな手法で学べるのか。つまり「学習管理」の視点です。

まずはコンプライアンス教育に適したタイミングを押さえること。
そして、eラーニングをする際に使用する「学習管理システム(LMS)」の機能を、もう一歩踏み込んで活用し、「大勢の受講者に教育を届けることができる」、「教育施策にオリジナリティーが出せる」、「学習履歴を自動的に取得することができる」といったメリットをフル活用することで、効果的に浸透させることができるようになるのです。

これらを踏まえ、本稿では、コンプライアンス教育の効果的な浸透方法について、有効な5つの方法と具体的な実施例をご紹介します。もちろん、コンプライアンスに限らず、eラーニングを使った教育施策全般で役に立つはずです。

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1. 効果的な浸透方法

コンプライアンス教育における効果的な浸透方法についてはポイントが5つあります。さっそく、それぞれの視点から具体的な方法をご紹介していきましょう。

1-1. 人事制度のタイミングと連動させる

まず、基本となるのは人事制度との連動です。たとえば社員のキャリア形成において、以下の時期はコンプライアンス教育を実施する好機です。

採用時
新人採用、中途のキャリア採用などのどちらでもいいのですが、新しく人材を採用したときは、会社の経営理念とともに、コンプライアンスに対する企業の方針を明示し、それに基づき、具体的にコンプライアンス教育を実施するのに最適なタイミングです。

昇格時
昇格時は、社員の意識が変わるときであり、コンプライアンス教育を行う好機になります、特に、マネージャー職のように部下を持ち、組織の責任者として管理能力を期待される幹部職に昇格したときは、全社員に要求される問題発見力に加え、組織にコンプライアンス問題が発生した場合に、リーダーとなって解決できる問題解決力が求められます。そのため、その能力育成に合わせたコンプライアンス教育が必要となります。
階層別の教育施策については、下記の記事をご参照ください。

コンプライアンス教育に必要な知識 違反の原因・階層別の教育方法をご紹介

さらに、事業部長や役員のように会社の経営全体に影響を与える役職へ昇格した場合は、その立場に応じたコンプライアンス教育を行う必要があります。

異動時
異動時も、コンプライアンス教育を行う時期として絶好のタイミングです。たとえば、海外事業部門に異動した対象者には、輸出・輸入業務に伴い、安全保障輸出管理の知識が必要となります。購買部門に異動した対象者には、社外への発注が恒常的に行われることから、下請法の知識が必要となります。基本となるコンプライアンスの基礎については、採用時や昇格時に終了していたとしても、異動した部門に関連する法令については、重点教育を行う必要があります。

1-2. 定期イベントを企画する

コンプライアンスの啓発を目的として、定期的なイベントを企画する方法も効果があります。たとえば、年に1回、1カ月間をコンプライアンス月間と定めて、全社を上げてコンプライアンスに対するさまざまなイベントを企画する方法です。

勉強会を開く
企画としては、話題となっているコンプライアンス問題について、専門家の講演や各職場での勉強会を実施するなどの企画が考えられます。そのタイミングに合わせて、全社員を対象としたコンプライアンスのeラーニングを行うなど、教育の企画を連動させる方法がお勧めです。

「コンプライアンス月間」を設ける
また、他の定期イベントとの連動させる方法もあります。たとえば、毎年、年初や期初に経営方針発表を行う機会があると思いますが、その月、もしくは次の月にコンプライアンス重点週間や月間を作り、その間にコンプライアンス教育を行う方法です。

ここで重要なことは「定期性」です。定期的にコンプライアンス教育の取り組みを行うことにより、「学習履歴のデータが自動的に取れる」というeラーニングのメリットを活かすことができます。例えば、組織単位や年度単位で経年変化のデータを取得し、比較することによって、コンプライアンス教育の効果や課題の分析に活用することができます。

定期的に意識調査をする
また、毎年同じ時期に定期的に調査を行う「コンプライアンス意識実態調査」で、経年変化のデータを取得していくのも、各部署を定点観測する意味で有効です。以前の記事では、「自分の部署でコンプライアンスに関する相談がしやすいか」、「経営幹部がコンプライアンスに関するメッセージを発信しているかどうか」などの項目で定期的にアンケートをとることで、部署の「風土」を見える化し、公表する方法をご紹介しました。この調査結果は、1-3でご紹介する学習結果データと突き合わせることで、よりはっきりとその部署の現状が把握できるようになります。
(詳細は下記の記事を参照)。

コンプライアンス教育に必要な知識 違反の原因・階層別の教育方法をご紹介

1-3. 学習結果データと連動させる

eラーニングや、学習内容に対するネットテストの学習結果に基づき、数値データを根拠に学習対象を絞り込み、重点的にコンプライアンス教育を行う方法もあります。

たとえば、リスクマネジメントの視点から、グローバルに事業を行う企業にとって重要度の高い「独占禁止法(特に、カルテル)」について、潜在的にリスクが高くなっている組織(部署)を洗い出し、重点的に教育する方法を考えてみましょう。

まず、全社に独占禁止法のeラーニングとカルテルを中心としたネットテストを行います。特に、重点テーマのカルテルについては、単なる知識問題だけではなく、具体的なトラブル事例を示して、「あなたならどんな行動をしますか?」と適切な行動を選択するタイプの問題を用いてネットテストを行う方法が有効です。このテスト結果の正答率が全社平均よりも低い組織(部署)には、「何らかの理由」があると推測できます。そして、その組織(部署)に対して、さらに、過去にコンプライアンス問題がなかったか、直近の内部監査で問題行動があるという指摘や、コンプライアンス意識実態調査、特に、自由記述などに問題行動となり得るコメントがないかなど、他のデータと比較分析を行います。この分析により、潜在的にリスクの高い組織を見つけることができます。

このように、学習後のテスト結果を端緒に、複数のデータと比較して、潜在的なリスクの高い組織(部署)を絞り込むのです。さらに、この比較分析をすることによって、数値的なデータが得られるので、この数値データを根拠として、何をどれだけ学習させるか、またどの部門や誰を学習対象者とするか、などをコンプライアンス教育の企画に組み込むことが可能です。

対象となった部門に対しては、重点的な集合研修や幹部や社員に対するヒヤリングにより、潜在的なリスクを顕在化させ、コンプライアンス問題の発生を予防する取り組みを行うことができます。この具体例については、後述のサンプル事例2-1で実施例をご紹介します。

1-4. 集合研修後のフォローアップとして相談を受け付ける

コンプライアンス教育は、知識を身に付けるだけでなく、教育後にアンケートやヒヤリングを組み合せることによって、「実は分かっていたんだけれども、組織や上司からのプレッシャーを感じて不安を相談できなかった」というような社員に対して、ホットラインのような相談窓口となる機能も持たせることができます。

筆者は企業のコンプライアンス担当だったとき、テーマを決めて、コンプライアンス問題の個別相談が難しい地方の拠点を重点的に回って集合研修を行い、研修後、意図的に長時間の質問時間を設けて、個別に相談を受ける企画を実施しました。集合研修の全体の場では質問しづらいことも、個別の相談であれば、気楽に相談できます。この個別相談を通して潜在的なコンプライアンス問題が見つかり、ニアミスの段階で対処できたこともあります。

1-5. 法令改正や著名なトラブル発生などのタイミングに教育する

大幅な法令改正があるときも、コンプライアンス教育に適したタイミングです。

たとえば、下請法が改正され、対象が拡大したときに、改正下請法の説明だけでなく、関連する法律として独占禁止法のeラーニングを行うという方法です。法令改正により、社内の業務やコンプライアンスのガイドラインが変わり、各職場に説明が必要となるタイミングは、関連する法令のコンプライアンス教育を行う好機でもあります。

また、2017年に発覚した「リニア入札談合」事例のように、著名な他社のトラブルが発生したとき、類似した事業を担当している公共営業部門を対象に、著名な他社事例の解説をし、同時に背景となる法令を重点的にeラーニングや集合研修を行う方法は学習効果があります。

コンプライアンス事例の使い方(1) リニア談合に学ぶ他社事例の活用法

2. 実際の研修事例

ここまで、コンプライアンスを浸透させるのに効果的な方法をご紹介しました。
2章では、「人事制度との連動(1-1)」と「学習結果データとの連動(1-3)」について、実際に筆者がコンプライアンス担当の時に実施した例をご紹介します。

2-1. 人事制度との連動の具体例

まず、対象者は、全社員、幹部社員、経営幹部の3種類に分けました。そして、その階層別にそれぞれ以下のような学習目標を設定しました。

・全社員:問題発見力
・幹部社員:問題解決力
・経営幹部:経営活用力

この場合の経営活用力とは、「事業においてコンプライアンス問題のリスクを予見し、予防を目指して組織の仕組みを構築できる能力」と定義しました。

「経営活用力」の学習には、集合研修が適しています。具体的な事例に対して、創造的な選択肢を考え、仕組み化するための「議論」が必要だからです。このとき、現実の課題を題材にして議論する「アクションラーニング」をすることも有効です。その場合、前もって前提知識や関連知識をeラーニングで学習してから議論をスタートするとよいでしょう。

「問題解決力」は、eラーニングと集合研修を組み合せた「ブレンディッド・ラーニング」が適しています。前提知識を前もってeラーニングで学習した後、集合研修では、発生したトラブルを題材に議論しながら、取り得る複数の選択肢を考え、最善の対応策を選ぶというプロセスを通して、問題を解決する方法を学びます。

あるいは、「反転教育」を用いて、事前に学習した結果に基づいてグループを分け、議論する集合研修も効果があります。

2-2. 学習結果データとの連動例

次に、学習結果データと連動させた実例を紹介しましょう。

eラーニングの後、ネットテストやアンケートを使って学習効果の測定と、課題の抽出を行います。しかし、そのデータのみでは組織単位の特徴が見つかりにくいため、内部監査やコンプライアンス意識実態調査など他のデータとの比較分析を行います。

その分析に基づき、重点的に教育などの対応をすべき“重点課題部門”を絞り込みます。絞り込んだ部門のすべてが潜在的なリスクを持っているか否かはケースバイケースですが、大きな組織の母集団から、一定の根拠で対象が絞り込めることに意味があります。

絞り込んだ部門に対しては、課題となっているテーマにより、ヒヤリングや重点テーマのeラーニング、集合研修などを行います。そして過去の学習結果と比較し、再度アンケートを取得してその内容を分析します。

ここで大切なのが、リスクの度合いによって重要度A~Cに振り分けるというリスクマネジメントの考え方です。そして、上記プロセスで明らかになった重点課題部門が、どのくらいの重要度を持っているのかを鑑みて、その部門に対してヒヤリングをするのか、eラーニングを受講させるのか、集合研修を企画するのかを決めていくのです。


この重要度A~Cは、上の図のように、「リスクの頻度」と「リスクの大きさ」の2軸を基準にして決めます。たとえば、グローバルに事業展開を行う大企業の場合であれば、5年以内に、100億円以上の損害が発生する可能性があるリスクを重要度Aとし、3年以内に50億円程度の場合は重要度B、1年以内に10億円の場合は重要度Cとする考え方です。

このリスクマネジメントの考え方は、下記の記事で詳しく解説しています。

コンプライアンスとは 法令だけじゃない、CSRとリスクマネジメントの重要性

リスクマネジメントの視点から、このような基準で重点取り組みの対象を絞り込みます。また、この方法は、定期的に行うことにより、経年変化を見ることができ、また、コンプライアンス問題が発生しないための予防効果も期待できます。

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3. まとめ

コンプライアンス教育における効果的な浸透方法について、5つの視点から具体的な方法をご紹介しました。

① 人事制度との連動
採用、昇格、異動時は、コンプライアンス教育の好機です。それぞれの役割に合わせた教育を行う方法が有効です。

② 定期イベントの開催
コンプライアンス週間や月間を設けるなど、定期的なイベントを企画し、その中にコンプライアンス教育を組み込む方法がお勧めです。eラーニングやネットテストなどのデータを取得し、開催毎に比較することにより、経年変化を見ることができます。

③ 学習結果データとの連動
eラーニングやネットテストの学習結果データを、内部監査、コンプライアンス意識実態調査と比較分析することにより、意味ある根拠で学習対象を絞り込み、重点的にコンプライアンス教育を行う方法もあります。

④ 内部監査との連動
定期的な内部監査を行っている場合には、その中で潜在的な問題があると指摘された対象に対して、重点的なコンプライアンス行為句を行う方法があります。その際には、研修後にアンケートやヒヤリングによるフォローアップにより、詳細の実態や潜在的なリスクを調べることも可能です。

⑤ 法令改正、著名なトラブル発生などのタイミング
大幅な法令改正がある時は、法令改正に伴う説明会やガイドラインの変更に合わせて、関連する法律のコンプライアンス教育を行う方法が有効です。また、著名なトラブル事例があった場合に、類似した事業を行う部門を対象に、重点教育を行う方法も有効です。

サンプル事例として、人事制度との連動例と学習結果データとの連動例をご紹介しました。

今回は、コンプライアンス教育について、効果的な浸透の方法と具体例を取り上げました。それぞれの特徴をご理解のうえ、コンプライアンスの教育施策にご活用ください。

  • 「リスクマネジメント総論「増補版」」 亀井俊明、亀井克之 同文館出版 2012年
  • 「リスク・マネジメント総論」 武井 勲 中央経済社 1987年

Written by

一色 正彦

金沢工業大学(KIT)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)
株式会社LeapOne取締役 (共同創設者)
合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

パナソニック株式会社海外事業部門(マーケティング主任)、法務部門(コンプライアンス担当参事)、教育事業部門(コンサルティング部長)を経て独立。部品・デバイス事業部門の国内外拠点のコンプライアンス体制と教育制度、全社コンプライアンス課題の分析と教育制度を設計。そのナレッジを活用したeラーニング教材の開発・運営と社内・社外への提供を企画し、実現。現在は、大学で教育・研究(交渉学、経営法学、知財戦略論)を行うと共に、企業へのアドバイス(コンプライアンス・リスクマネジメント体制、人材育成・教育制度、提携・知財・交渉戦略等)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている 。
東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール )、日本工業大学(NIT)大学院 客員教授(技術経営研究科)
主な著作に「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー(改訂版民法改正対応)、「第2章 法務部門の役割と交渉 4.契約担当者の育成」において、ブレンディッド・ラーニングの事例を紹介」(共著、第一法規)、「リーガルテック・AIの実務」(共著、商事法務:第2章「 リーガルテック・AIの開発の現状 V.LMS(Learning Management System)を活用したコンプライアンス業務」において、㈱ライトワークスのLMSを紹介 )、「ビジュアル 解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)などがある。

執筆者プロフィール

まるでゲームを攻略するように
コンプライアンス教育に
取り組めるよう、
無料のeBookを作りました。

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