「パワハラで自社が新聞沙汰になったらどうしよう……」
パワハラ防止対策の本格化により、そのような心配をされた方もいるのではないでしょうか。
企業に初めてパワーハラスメント(パワハラ)の防止対策を義務付けた「労働施策総合推進法」や「女性活躍推進法」など、5本の法改正(パワハラ防止法)が行われました。
これによって、大企業は2020年6月以降、中小企業は2022年4月以降に、パワハラ防止対策が義務付けられました。
実際のところ、どのくらいの企業がパワハラ防止対策を行っているのでしょうか。パワハラ防止法施行後、約1年を経過した2021年5月の調査では、計画的な対応をしている企業は72.8%でした。一方で、何も対応できていない企業は27.2%でした[1]。3割近くの企業は、まだ対応ができていないということになります。
今回の法改正で、厚生労働省は、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)がパワハラに該当する例と該当しない例を示した、職場における関係指針(パワハラ指針)案を確定しました。
この指針により、今まで明確には定義されてなかったパワハラの基準が具体例として示されました。
さらに、関連して性的な嫌がらせ(セクハラ)と妊娠・出産等に対するハラスメント(マタハラ)についても、防止対策を強化する法改正が行われています。
しかし、実際のビジネスシーンでは、どこまでがパワハラに該当するか判断に迷う事例が多いのが現状です。
今後はパワハラ防止法に対するコンプライアンスとして、それぞれの企業が自社でどのように取り組むか基準を決めた上で、具体的な防止対策を行う必要に迫られています。
今回は、パワハラ防止法の概要として、厚生労働省が示した3要素と6類型について、具体例と現在の課題をご紹介します。
その上で、厚生労働省が企業のパワハラ対策ガイドラインとして明示したパワハラ対策7つのメニューについて、各項目の具体的な取り組み方法をご紹介します。
既に対策をしている企業にとっても、まだ対策ができていない企業にとっても、より一層適切で効果的な対策をする上で参考になるかと思いますので、ぜひご一読ください。
[1] アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
1. パワハラ防止法の内容と企業コンプライアンス
今回の法律の柱となる「3要素と6類型」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
1-1. パワハラの3要素と6類型
職場のパワハラの定義について、厚生労働省は、次の3つの要素とその具体例を示しています。
・3要素
(1)「優越的な関係を背景とした」言動
例:職務上の地位が上位の者による言動
(2)「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動
例:業務上明らかに必要性のない言動
(3)「就業環境が害される」状況
例:(1)(2)の言動により労働者が身体的、精神的に苦痛を与えられる状況
また、職場でパワハラに当たる事例として、次の6つの類型と具体例を示しています。
・6類型
(1)身体的な攻撃
例:上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
(2)精神的な攻撃
例:上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
(3)人間関係からの切り離し
例:自分の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
(4)過大な要求
例:上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
(5)過小な要求
例:上司が管理職である部下を退職させるため 、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
(6)個の侵害
例:思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないように働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
さらに、この指針ではセクハラについて、「対価型セクシャルハラスメント」(例:上司が性的な関係を拒否した部下を解雇する)と「環境型セクシャルハラスメント」(例:上司が部下の身体に触れるため、部下の就業意欲が低下する)を定義しています。
また、マタハラについても、妊娠・出産等を理由とする不利益への取り扱いについて、具体的な内容を明示しています。
パワハラ指針により、今まで定義が曖昧なまま問題視されてきたパワハラの基準と具体例が、初めて示されました。
参考) 厚生労働省「パンフレット 職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf (閲覧日:2021年8月25日) |
1-2. 指針案の課題のその後
パワハラ指針が労働政策審議会で検討された際、本当に業務の適正な範囲であるか、それともパワハラとして対策すべきかの判断が難しい事例が議論されていました。
例えば次のような事例です。
・十分な指導をせず、放置する。(精神的な攻撃)
・仕事を割り振らず、プロジェクトから阻害する。(人間関係からの切り離し)
・十分な指導を行わないまま、過去に経験のない業務に就かせる。(過大な要求)
・プロジェクトに参加させてもらえず、本人から「経営に貢献したい」と相談があった。(過小な要求)[2]
他にも、6類型のうちの「過小な要求」について、最初の指針案で例示されていた「経営上の理由により一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせること」は、「経営上の理由」の解釈が難しいという理由で、最終の指針案の段階で削除されました。
このように、何をパワハラとして判断するかどうかは、指針を決定する側にとっても非常に難しい問題でした。一方で、この指針を受けて対策をする企業側にとっても、パワハラの判断は大きな問題です。
前述の調査では、パワハラ問題において難しいと感じる点として、「行為者にパワハラをしている自覚がない(53.8%)」、「受け手がパワハラであると過剰に捉えてしまう(37.2%)」、「世代間ギャップがあり従業員によって認識が異なる(36.4%)」が上位3項目として挙げられています。
これらは、どれも個人の感覚や考え方の違いから起こる難しさです。この結果からは、パワハラ対策に悩む企業の姿が見られます[3]。
パワハラ指針により、これらの問題が解決されたわけではありません。
しかし、パワハラ指針は、そもそも過去の裁判例や実際に企業で問題となっている事例などに基づき作成されたものです。特に過去の裁判例は、企業がパワハラ対策をする上で役立ちます。
厚生労働省のサイトにおいて、6類型や会社の責任が認められた裁判などのキーワードで検索できる情報が開示されています。さらに、それぞれの裁判例には、事例の概要に加えて、弁護士の解説や注意点のコメントが掲載されています。
パワハラ指針とその背景となったこれらの情報は、企業が今後パワハラ対策を行う上で、有益な情報になるでしょう。
参考) 裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-(厚生労働省) https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/index |
1-3. 企業に求められる措置
パワハラ防止法により、企業は「パワハラの被害者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」と「雇用管理上の必要な措置」が義務付けられます。
違反に対して、刑事罰の規定はありませんが、悪質な違反企業は、社名が公表されます。
企業に求められる措置について、パワハラやセクハラ問題に詳しい瑞木総合法律事務所の松木俊明弁護士[4]は、次のように述べています。
現時点では、一応の措置を採れば法律上の義務を果たしたことになります。しかし、CSRの観点に加え、インターネット等の普及により個人による情報発信が容易になった現代社会においては、リスクマネジメントの観点からも、実効性のある具体的な措置が求められます。形式的な措置のみで、実質的な運用がされていなかったために、パワハラにより被害者が精神疾患に陥ってしまった場合には、労災認定される可能性もあります。そのため、企業には、形式的な措置ではなく、実効性のある取り組みが必要なのです。
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参考) 「強制わいせつ罪の判例変更、被告の弁護団「従来なら無罪なのに・・・不公平だ」」,『THE SANKEI NEWS』,2017年11月29日,https://www.sankei.com/affairs/news/171129/afr1711290038-n1.html (閲覧日:2021年8月6日) 「「白雪姫」を目覚めさせる王子さまの「キス」、準強制わいせつ罪にあたる?」,『弁護士ドットコムニュース』,2017年12月26日,https://www.bengo4.com/c_1009/c_1198/n_7214/ (閲覧日:2021年8月6日) 「「明確な同意のない性行為はレイプ」スウェーデン新法、被害減少の期待と新たなリスク」,『弁護士ドットコムニュース』,2018年7月19日,https://www.bengo4.com/c_1009/n_8226/ (閲覧日:2021年8月6日) 「「30分立たせ叱責」もシロ?パワハラ防止案が波紋」,『日本経済新聞』,2019年10月24日,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51300020T21C19A0EE8000/ (閲覧日:2021年8月6日) 「「辞めてしまえ」はアウト」,『日本経済新聞』,2019年6月5日,https://www.nikkei.com/article/DGKKZO45692030U9A600C1EE8000/(閲覧日:2021年8月6日) 「就活生・フリーランスも守る パワハラ防止法」,『日本経済新聞』,2019年6月7日,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45772260W9A600C1EE8000/(閲覧日:2021年8月6日) 「先月成立した<パワハラ防止法>の解説と今後の課題」,『Yahoo!Japanニュース』,2019年6月20日,https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakiryo/20190620-00130804/(閲覧日:2021年8月6日) |
[2] 厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」,『雇用環境・均等局』,平成30年10月17日,https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf(閲覧日:2021年8月6日)
[3] アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
[4] 瑞木総合法律事務所所属弁護士(http://mizuki-sogo.com/profile/index.html#s07):刑事事件、企業法務、知的財産案件を中心に取り扱っている。弁護士業以外にも、ハーバード流交渉学の講師として大学(関西大学非常勤講師)での講義、企業研修講師を数多く担当。関西圏国家戦略特区雇用労働センター相談員を歴任(2017年度、2018年度)。パワハラやセクハラ分野について、強制わいせつ罪に関する最高裁判決事件(平成29年11月29日)の弁護を担当し、関連記事を執筆している。
2. コンプライアンス強化のための7つのパワハラ対策
厚生労働省は、企業のパワハラ対策のガイドラインとして、次のような「7つのメニュー」を提示しています。これらは、パワハラ対策に限らず、コンプライアンス全般に対する基本的な取り組みにも有効な方法です。
既に、パワハラ対策に取り組んでいる企業も、パワハラ対策のガイドラインに基づき、現在の取り組みが十分であるかを検証してください。
7つの項目について、過去にご紹介したコンプライアンス対策の事例に基づき、パワハラ対策に対する具体的な取り組み方法を順にご紹介しましょう。
参考) 厚生労働省「パンフレット 職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf (閲覧日:2021年8月25日) |
2-1. パワハラ対策7つのメニュー (1)トップのメッセージ
まず、トップからの継続的なメッセージ発信をしましょう。トップのメッセージで重要なことは、「定期的で継続的に、社員に対するトップのコンプライアンスに対する考え方を発信すること」です。
社員に対してコンプライアンス意識実態調査を実施したところ、「経営幹部によるコンプライアンス発信」が、「職場が事業推進とコンプライアンスのどちらを優先するか」と「不祥事・違反情報が経営幹部に迅速に伝達するか」という認識に対するアンケート結果に影響している、という事例があります。
定期的で継続的なトップのメッセージは、社員のコンプライアンス意識に強く影響するため、コンプライアンス問題の発生を予防する効果も期待できます。さらに、パワハラ問題のような判断に迷う事例には、特に効果的です。
2-2. パワハラ対策7つのメニュー (2)ルールを決める
次に、自社ごとのルールを明確化しましょう。現在の指針案のみから、企業がパワハラ対策の基準を決めるのは難しい状態です。しかし、自社の日常的なビジネスシーンから、「明らかに問題となる事例」と「明らかに問題とならない事例」を具体的に示すことは可能です。
その上で、判断に迷う事例については、法務部やコンプライアンス部門などの専門部門に相談することをルールにすることができます。
法務部やコンプライアンス部門が判断に迷う場合は、外部の弁護士などの専門家の意見を聞いて個別に判断すればよいでしょう。具体的には、次のようなプロセスでルールを明確化することができます。
・Step 1:ビジネスシーンからQ(Question)を作る
・Step 2:各Qに対して、〇×△の基準を決める
・Step 3 :〇×△から、チェックリストを作る
・Step 1:ビジネスシーンからQ(Question)を作る
厚生労働省の指針案とパワハラに該当する例とパワハラに該当しない例を示した上で、法務部やコンプライアンス部門に加え、複数の事業部門の幹部や社員に協力を求めて、自社のビジネスシーンにおいて、判断に迷う例をQ(Question)として抽出します。
Qの作成方法については、以下の記事をご参照ください。
・Step 2:各Qに対して、〇×△の基準を決める
抽出した各Qに対して、パワハラに該当しない例を「〇」、該当する例を「×」、判断に迷う例を「△」として、〇×△に分類します。△については弁護士などの専門家の意見を聞き、〇もしくは×と判断します。
ただし、それでも判断に迷う△の事例が残ると思います。そのため、△の事例は法務部やコンプライアンス部に事前に相談が必要な基準とします。
そして、実際に相談があった場合に、今後の厚生労働省の指針や裁判の判例、弁護士に相談することなどによって個別に判断します。
〇×△方式の基準と運用方法については、以下の記事をご参照ください。
・Step 3 :〇×△から、チェックリストを作る
さらに、ビジネスシーンごとに典型的な〇×△の事例を示したチェックリストを作成します。
このチェックリストを社員に示すことによって、パワハラ防止法に対する啓発効果が得られるとともに、問題発生の予防効果も期待できます。このチェックリストは、次にご紹介する再発防止のための自主チェックにも活用できます。
チェックリストの作り方については、以下の記事をご参照ください。
2-3. パワハラ対策7つのメニュー (3)社内アンケートなどで実態を把握する
アンケートを実施して、結果を数値化しましょう。
パワハラ問題は判断に迷う微妙な事例が多く、社員の実感やパワハラ問題の潜在的なリスクを把握するには、社員に対するアンケート方法にひと工夫が必要です。
単に「職場にパワハラがあるかないか」や「上司からパワハラを受けたことがあるか」というストレートな設問を、単純な〇×方式で聞いたとしても、実態や潜在リスクを把握するのは困難です。
そこで取り入れたいのが、心理学の研究から生まれた「セルフ・エフィカシー型のアンケート」です。
カナダの心理学者A・バンデューラは、「ある行動を自分自身がうまくやり遂げられるかという自信である“セルフ・エフィカシー”(self-efficacy:自己効力感)」理論を提唱しました。
セルフ・エフィカシー理論はもともと、依存症治療の効果を計る場合など、臨床医療の現場で活用されていました。しかし現在では、研修など教育による学習効果の分析にも利用されています。
セルフ・エフィカシー理論は、アンケートの設問に対して、自信があるか否か、回答者がどれだけ同意できるかという同意の度合いを段階的に選択し、その結果を数値化して分析する方法です。
参考) 山本敏幸,田上正範著『交渉学の授業・ワークショップの成果を可視化する手法の研究 ―学習者の達成度・自信度をセルフ・エフィカシーにより可視化―』,日本説得交渉学会第3回大会発表論文集,2010年11月28日,p.34-36. |
このアンケート方法を用いれば、パワハラ問題に対する社員の微妙な心理を数値化することができます。また、部門ごとや職位ごとなどについて、数値を基準とした比較分析や複数年度の数値変化を見ることもできます。
そのためには、このアンケートを定期的に行い、比較分析することが重要です。この方法であれば、パワハラ問題についても、社員の実感や潜在的なリスクを把握することが可能です。
2-4. パワハラ対策7つのメニュー (4)教育をする (5)社内での周知・啓蒙
社員教育は法改正時が絶好のタイミングです。
コンプライアンス教育には事例型教育が有効であり、パワハラ問題のように判断が微妙な事例には、特に効果的です。
パワハラ問題に対する事例型教育は、厚生労働省の指針、過去の裁判例、他社事例が素材になります。
さらに、自社内で受けた相談のうち、判断に迷う事例(△)に対する個別の内容や、社員に実施するアンケートの自由記述欄の分析などを通じて、自社事例を蓄積することができます。
事例の伝え方や教材の作成方法、また、他社事例と自社事例の活用方法については、次のブログを参照してください。
コンプライアンス教育を効果的に行うには、大幅な法改正があるときが絶好のタイミングであることは、以前ご紹介しました。
今回のパワハラ防止法の施行は、話題性があるとともに、幹部や社員が普段の業務でどのように対応すべきか迷うことが多い日常的な法律です。
前述の調査では、パワハラ防止の意識を啓発する研修、講習を実施している企業は、93.4%です[5]。
しかし、研修は単発ではなく、階層別、職種別の研修に組み込むなど、定期的かつ継続的に実施することが重要です。また、研修後のアンケートやヒアリングにより、効果の検証や課題の分析を行う必要があります。
コンプライアンス教育は一過性の取り組みではなく、定期的に継続して実施することによって問題発生の予防効果が期待できます。
2-5. パワハラ対策7つのメニュー (6)相談や解決の場を提供する
前述の調査によると、パワハラ防止法施行後、パワハラに特化していない場合を含み、93.4%の企業が内部通報するための相談窓口を設置しています[6]。
内部通報制度には、社内の窓口と社外の窓口の2種類があります。
内部通報の多い企業ランキングの上位100社を見ると、ほとんどの企業が社内と社外の両方に窓口を設けています。
パワハラ、セクハラ、マタハラなどのハラスメント問題は、コンプライアンス問題の中でも社内窓口の担当者には相談しづらいテーマです。そのため、社員が社内の窓口か社外の専門機関や弁護士のいずれに相談するかを選択できる体制が良いと思います。
参考) 「「内部通報の多い企業」ランキング最新TOP100」,『東洋経済オンライン』,2021年1月29日,https://toyokeizai.net/articles/-/407738?page=2 (閲覧日:2021年8月26日) |
また、社外の専門機関や弁護士は、いろいろな会社の微妙な相談事例を蓄積しています。
それらと自社の事例を比較分析することでコンプライアンス教育に活用したり、事前の予防策を取ったりすることにより、問題発生の予防効果が期待できます。
内部通報制度の現状と課題、社外弁護士の活用方法については、次の記事を参照してください。
2-6. パワハラ対策7つのメニュー (7)再発防止のための取り組み
パワハラの再発防止を図るためには、コンプライアンス問題が発生した後、迅速に問題を解決することで、企業が受ける損害を最小限にしようとするアプローチ(案件法務)が必要です。
それに加えてコンプライアンス問題の背後にある根本的なリスクを分析し、そのリスクに対して適切に対応できる仕組みや仕掛けを準備しておくことによって、今後のコンプライアンス問題の発生を予防しようとするアプローチ(予防法務)が必要です。
コンプライアンスが対象とする法分野は幅広く、製造業や商社など、業種によっても重点的に取り組むべきテーマは異なります。しかし、パワハラ問題は業種に関係なく、全ての企業が重点テーマとして取り組むべきコンプライアンスの法分野です。
前述のコンプライアンス教育と同様に、社内のコンプライアンス体制が不十分な場合、または現在のコンプライアンス体制の維持や強化を行いたい場合、今回のパワハラ防止法の施行はコンプライアンスの取り組みを強化するのに良い機会です。
再発防止の視点から、トップの発信、アンケートの実施、コンプライアンス教育の関係図は、次のようになります。
図)コンプライアンス 階層別教育について
※この関係図について、無料eBook『コンプライアンスが面白くなる!~ゲーミフィケーションで実践する教育の仕組みづくり』の第4章で詳しく解説しています。
また、コンプライアンス体制の課題を抽出し、維持し、発展させるためには、定期的なチェックが必要です。
チェック方法としては、各組織にチェックシートを提示し、自主チェックによる定期的な監査がお勧めです。この方法であれば、現場の負担が少なく、予防法務の効果も期待できます。
さらに、アンケート分析や教育実績などのデータを比較することにより、啓発・教育効果の分析や潜在的なリスク分析を行うこともできます。
自主チェックのためのリストには、前述の〇×△ガイドラインに基づき作成するチェックリストが活用できます。
案件法務から予防法務を目指したコンプライアンス体制作りと自主監査を含む、内部監査のPDCAについては、次の記事をご参照ください。
前述の調査では、パワハラ防止法の影響について、「良い影響があった」と答えた企業が54.1%になっています[7]。
パワハラ防止法の施行を契機にコンプライアンス体制を整備し、定期的なアンケートと教育により予防法務に取り組むことが、企業のコンプライアンス経営にとっては重要であり、また効果的です。
■大手電機メーカーで実際に行われた施策をもとに、コンプライアンス教育手法を131ページにわたり解説!
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[5] アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
[6] アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
[7] アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
「パワーハラスメント対策」をeラーニングで社員教育
eラーニングコース:誰もが安心して働ける職場を実現!「パワーハラスメント」対策コース
パワハラは誰が加害者・被害者になるか予想の難しい問題、全社員が知るべき知識
eラーニングコースでは、組織に所属している全ての人が、多様化する個性や複雑な環境にあっても、パワハラに正しく対処する知識と対応法を身に付けることができます。
具体的には、「パワハラの定義」のほか、「パワハラ加害者および会社の責任」、「管理職として実施すべきパワハラ対策」など、それぞれの立場に必要な内容を網羅しています。また、具体的事例から、誰もが当事者意識をもって知識を深めることができるよう構成されています。
全社教育に本コースを導入いただくことで、パワーハラスメント防止と円滑なコミュニケーションが取れる職場づくりに役立つ知識を身に付けることができます。
3. まとめ
パワハラ防止法が施行されることにより、大企業は2020年6月以降、中小企業は2022年4月以降、企業に初めてパワハラ防止の対策が義務付けられました。
パワハラ防止法には、3つの要素と6つの類型があります。
3要素
(1)「優越的な関係を背景とした」言動
(2)「業務上必要かつ相当の範囲を超えた」言動
(3)「就業環境が害される」状況
6類型
(1)身体的な攻撃
(2)精神的な攻撃
(3)人間関係からの切り離し
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害
6類型それぞれに対して、厚生労働省は、パワハラに該当する例と該当しない例を職場における関係指針(パワハラ指針)として明示しています。
パワハラ指針によって、今まで不明確であったパワハラの基準と具体例が初めて示されました。しかしながら、その内容を見ると業務の適正な範囲であるか、それともパワハラとして対策すべきかの判断が難しい事例があります。
従って、企業はパワハラ防止法に対する対策について、自社でどのように取り組むかの基準を決めて対応する必要に迫られています。
厚生労働省が明示した企業のパワハラ対策7つのメニューに対して、過去にご紹介したコンプライアンスの取り組み方法から、パワハラ防止対策に有効な具体策をご紹介しました。
パワハラ対策7つのメニュー
(1)トップのメッセージ
(2)ルールを決める
(3)社内アンケートなどで実態を把握する
(4)教育をする
(5)社内での周知・啓蒙
(6)相談や解決の場を提供する
(7)再発防止のための取り組み
今回は、パワハラ防止の概要と現在の課題、そして、パワハラ対策の具体的な方法について取り上げました。これらの事例を参考に、自社の適切なコンプライアンスの実現に取り組んでください。
- アドバンテッジ リスク マネジメント「パワハラ防止法施行は意識変化のきっかけとなる「良い影響」一方で「パワハラ行為者の自覚欠如」は課題」,『PR TIMES』,2021年8月19日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000117.000024618.html (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」,『雇用環境・均等局』,平成30年10月17日,https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf(閲覧日:2021年8月6日)
- 厚生労働省「パワーハラスメント対策が事業主の義務となりました!~セクシャルハラスメント等の防止対策も強化されました」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000595059.pdf (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月5日公布)の概要」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584588.pdf (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「パンフレット 職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」,https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「裁判例を見てみよう|あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト」,『あかるい職場応援団』https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/judicail-precedent/index (閲覧日:2021年8月25日)
- 厚生労働省「パワハラ対策導入マニュアル7つのメニュー」,『あかるい職場応援団』,https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/measures/message(閲覧日:2021年8月6日)
- 「「内部通報の多い企業」ランキング最新TOP100」,『東洋経済オンライン』,2021年1月29日,https://toyokeizai.net/articles/-/407738?page=2 (閲覧日:2021年8月26日)
- 「強制わいせつ罪の判例変更、被告の弁護団「従来なら無罪なのに・・・不公平だ」」,『THE SANKEI NEWS』,2017年11月29日,https://www.sankei.com/affairs/news/171129/afr1711290038-n1.html(閲覧日:2021年8月6日)
- 「「白雪姫」を目覚めさせる王子さまの「キス」、準強制わいせつ罪にあたる?」,『弁護士ドットコムニュース』,2017年12月26日,https://www.bengo4.com/c_1009/c_1198/n_7214/(閲覧日:2021年8月6日)
- 「「明確な同意のない性行為はレイプ」スウェーデン新法、被害減少の期待と新たなリスク」,『弁護士ドットコムニュース』,2018年7月19日,https://www.bengo4.com/c_1009/n_8226/(閲覧日:2021年8月6日)
- 山本敏幸,田上正範著『交渉学の授業・ワークショップの成果を可視化する手法の研究 ―学習者の達成度・自信度をセルフ・エフィカシーにより可視化―』,日本説得交渉学会第3回大会発表論文集,2010年11月28日,p.34-36.